線香花火

Day 6 ページ34

その日のバイトはとても長く感じた。
時計を見る回数が多いからか、
さっきから針は全然進まない。



思っていたよりも、彼との約束が楽しみであることに
自分でも驚いてる。



｢おーい、おいA｣


｢あっ、はい。すみません｣



広斗さんと、その隣の竹田さんがこっちを見ている。
呼ぶ声にも気づかないぐらいぼーっとしてたなんて。



｢祭りボケか？しんどい？｣


｢いえ。大丈夫です、ちょっと考え事してて…すみません｣


｢…さっきやまとさんがめっちゃAの方
見てたけど、それ？｣


｢は、はいっ？違いますよ全然！｣



やまとがここを通った？
1ミリも視界に入っておらず、気づかなかった。
外から帰ってきたのか、中から出てったのかすらも
分からない。



ズバリ言い当てた広斗さんはククッと笑って
あたしの耳に口を寄せた。



｢アシストしたんだから、今更隠し事なんかすんなよ｣



…そのアシストはあたしが望んだものじゃないんだけどな。
かと言ってあたしたちがスタッフと客の関係で済まないことは
広斗さんだけがよく知ってる。



もしかしたらメンバーも知ってるかもしれないが。



｢今日、花火するんです｣



別に言う必要もないが、ぼーっとしていたのは
事実なので致し方ない。



｢へぇ、いいじゃん。あの人達の出発明日だし
思い出作んねぇとな｣


｢…思い出は、ここに全部置いていきますけどね｣



昨日の別れ際はめ直された、右手の薬指に光るリングも
来月には消えている。



泡となりなくなったどこかのお姫様のよう、綺麗さっぱり。

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