線香花火

＿＿ ページ32

……まずい。
非常にまずい。



結構並んでやっとあたしたちの注文が通ったはいいものの
さっきからかき氷を作るお姉さんがチラッチラ彼を見ている。



それをやまとさんも勘づき、
不自然でない程度に俯いたりしているが
商品を渡される時が1番の難関だ。
俯いたまま受け取ってはそれこそバレたくないと
言っているようなものだから。



｢お待たせしましたレモンです｣



あたしのが先に渡され、がっつり彼をロックオンした
お姉さんがブルーハワイを持ってやってくる。



｢ブルーハワイになりますぅ、あの、｣


『ありがとうございます』



間髪入れず続けようとしたお姉さんの言葉を遮り、
しっかりあたしの手を握る。



早足で列を抜け、かき氷の屋台が見えなくなるまで
1歩たりとも立ち止まらなかった。
祭り会場の入り口付近まで来た時、無言だった2人の
緊張の糸がふっと解けた。



『大丈夫？笑 危なかったねあれ！』


｢めっちゃハラハラしたんだけど、はぁ…｣


『顔ガッツリ見られてないし、断定はされないと思う笑』



だがここでも、次の脅威に襲われる。



花火の時間が近くなってきたこともあり
どんどん人がなだれ込んでくるのだ。
広斗さんからの情報に寄ると沖縄で一番大きな祭りらしいから
大勢集まってくるのも何ら不思議はないが…



これだと、いくら花火に夢中とは言えバレる
確率も高くなってしまう。
人のいないところなんて土地勘のないあたしたちは分からない。



『行こ、バレちゃうかもしんない笑』


｢行くってどこに？｣


『俺らが貸切にしたビーチだよ』



そうか。
まだあそこは残されてたのか。



｢…天才かよ｣


『だろ、笑』



人の流れに逆らって響く足音が、2つ。
繋がれた手はどんなに人に揉まれようと離れることは無かった。

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