線香花火

＿＿ ページ28

すれ違い様に視線が来る度、
若い女達がこちらを見て頬を染める度、



その手を離してしまいたくなった。



あたしはこの人のものではなく
この人はあたしのものでない。



彼が一般人なら甘酸っぱいドキドキだけで済んだこの胸が
むしろ萎んでいく気がした。



『ね、なんか食べたいのある？』



それでも、あたしの耳に口を寄せて話す声には
甘酸っぱさを感じずにはいられない。
周囲が彼を見る中でその彼はあたしを見ている。



不安と優越感のせめぎ合い。



｢たこ焼き、食べたいな｣


『たこ焼きね？俺も食べたい！』



自慢の高い身長でキョロキョロと辺りを見回して
ある一点で視線を止めた。



あったよと笑いかけてその方向へ優しく手を引いてくれる。
それだけではなく、人混みに入ろうものなら腰を抱かれ
なるべくあたしが他人と接触しないよう計らってくれた。



有名人というのはこんなこともサラッとできるものなのか。
いや、雅貴くんもたまにしてたな…



チャラ男の特徴に変更、かな。



お目当てのたこ焼きに並び出してもこの体勢は変わらない。



｢や、やまと。もういいよ｣


『何がー？』


｢並んでるから、もう当たらないよ｣


『俺がこうしたいからしてるの。だめ？』



なんてこった。
なんて殺し文句。
後ろの方聞こえておられたらすみません。



微笑ましい、なんて思っていただければ幸いです。

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