四月の夜は。-7-

309. ページ9

...目を閉じた先

...暗闇の先の体温は

もう何度目かの感覚で

ただ触れているだけのほんのちょっとの感覚だけど

やっぱり知っている様で知らない

そんな不思議な感覚に包まれた...




少しだけ唇を離して視線を向けるとわたしを見る倫也さんの視線と重なった...








「...これは..違います。」

小さな声で言うと、倫也さんは視線は逸らさないまま少しだけ不思議な顔をした...



「...これは..役じゃ..ないです。」


そう...伝えるのが精一杯だった...

視線を外しながら頬の両手を離して小さく唇を噛んだ...




静かな部屋

また耳に届く水槽の気泡の音

それだけのはずだったのに

わたしににか聞こえない心臓の鼓動が体の中で響いて

体全体が心臓になったみたいだって思った...


たった数秒...


きっと本当に短い時間なんだろうけど

わたしには全部がゆっくり感じて

自分が発した言葉が倫也さんへ届くのもきっとまだまだ先の事だと思った...















ポタッ...











シンクに水滴が落ちた音がした...


同時におでこに触れた倫也さんの髪の毛...

まるでその一滴で魔法が解けたかの様にスッと時が進んだ気がした...


視線を上げたと同時にぶつかった視線は真剣で

おでこが当たるくらいの距離で

倫也さんはいつもみたいに少しだけ目尻を下げて笑ってくれた











『...俺は【倫也さん】じゃない。

.....それでもAちゃんは平気...？』









表情とは裏腹に目の奥が真剣で

吸い込まれる様に動けなくなってしまったわたしは


...コクン..


と頷くことしかできなかった...





ソファーについていた手元に倫也さんの手のひらがぶつかって少しだけ指が重なって

コツリとぶつかったおでこと鼻先

そして

...ゆっくり目を閉じる倫也さんのまつ毛を最後にわたしも引き寄せられる様に瞳をとじた...











唇が...














.....触れた...


















あの日のソファーでのキスシーンを思い出した

わたしは本番の事をよく覚えてなくて

でも唯一

この...唇に伝わる温度は覚えてる...








...だけど..

..あの日とは.....違う...



離れては重なる唇はだんだんと深さを増して

息が...苦しい...



手元で柔らかく重なってた手のひらをギュッと掴んで

少しだけ唇を離すと

自分が肩で息をしてるのがわかる...


そんなわたしをニコッと笑って見つめた倫也さんは

わたしの頭をグッと引き寄せて


もう一度...唇を重ねたんだ...

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