四月の夜は。-12-

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初日の東京公演からスケジュール通り始まったツアー。

わたしは体力向上の為に時間が空けばぼんちゃんご紹介のジムに通って、家では加湿器フル稼働、そしてなるべくの早寝早起きを心がけて過ごしていた。

久々の地方公演は思った以上にものすごく待っていてくれたんだなっていう事を実感するくらいどの会場も暖かく迎えてくれた...

絵に描いたように忙しなく、でも充実した日々はハイスピードで過ぎていった。

そして今日、久々の自宅に到着した深夜1時。

［お疲れ様です。こんな時間になってしまって申し訳ないです。ゆっくりお休み下さい。］

到着時刻よりも遅れてしまった事を気にする伊藤ちゃんに

「ううん、全然。わたしの都合なのに一旦こっち戻ってくれて本当にありがとう。この2日でまたパワーアップして戻ります！笑」

そう言って見送った。

伊藤ちゃん...わたしが休む明日明後日もきっと仕事だろうな...
ほんと...ちゃんと頑張ろう...
聴いてくれる人達の為にも一緒に居てくれる人達の為にも...



「ただいまー...。」

シーンと静まり返った暗い部屋のリビングに電気を付けて、久々の自宅ソファーにダイブした。


「...疲れたぁ......。」


久々の自宅という安心感からかここまでの疲れがドドドッとのしかかる様に体がソファーに沈みそうになる

瞼が閉店ガラガラしそうになった時に、明日のmoonの事が頭をフワッと過った




.....はっ！ダメだダメだ

明日、弾くんだクラシック...

iPadに楽譜送っておかなきゃ...

あー....ツアー中メインのiPad伊藤ちゃんに持っててもらってんだった...

まぁいいか、、自宅用のに移そ...


よいしょよいしょと重たい体をズリズリと引きずってパソコンの前に座って作業をして、せっかくだから時間が余ればお店のBGMとしてでも弾ける様な楽曲の楽譜もiPadへと写した。

データの入ったiPadの中身を確認していた時だった...







「....これ..」



題名のないフォルダがひとつ

誰にも渡す事のない

誰にも聴かせる事もないこの曲


心がいっぱいいっぱいだったあの頃

少しでも吐き出せば楽になるかも知れないと

想いのままに書き綴った曲




「.......。」

グッと苦しくなる胸の奥

わたしはスッと息を吸って

目の前のフォルダをスワイプしてゴミ箱のマークへと指を進めた

ゴミ箱のマークの真上



今指を話せば...



離せば...















「.....はぁ...。」


目線の先

ゴミ箱の横には無題のまんまのフォルダが並んでた...

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