うんざり ページ9
ぐげ、とか、ごぎゃ、とか、どちらともつかないような鳴き声をあげながら大きな蜘蛛は天井から降りてきた。他の幻想体達はいつの間にかある扉から外に出る。
「おチビちゃん、坊やをお願いするわ。私はこの子達に大切な話があるの」
「分かりました、母さん……ところで、そちらのY178は?彼は不必要なのではないのでしょうか」
「あのおチビちゃんは別件よ」
赤目の女の子に、女王蜘蛛は腕に抱いていた男の子を預ける。黒髪をした、小さな男の子だ。眠っているのか、目を閉じている。女の子は頷いて、レンさんと一緒に部屋を出た。
蜘蛛の巣の中に取り残されて、不安になる。そりゃそうよ。多分、相手はあたし達を、その気になれば軽く殺せるような生き物なんだもの。元より相手の方が強いのに、しかも今はその巣の中。まな板の上の鯉じゃない。
「さて、よくも待たせてくれたわね。まあ良いわ、サボった私も悪いんだし」
だから、いきなりそんな事を言われても、咄嗟に言い返せなかったの。女王蜘蛛はおぞましい形相をしてあたしを睨んだ。戸惑いよりも恐怖が先に来て、ひ、と、小さな悲鳴が漏れそうになる。
女王蜘蛛は何かため息をついて、アインさんを抱き寄せる。アインさんは涙目で抵抗したけれど、女王蜘蛛は意にも介さない。
「私は気長で心優しいから許してあげてるのよ。そうでなかったらこんなに待たないわ。ここまで来るのにどれくらいかかったと思う?ああ、まあ、これで終わりとも限らないけれどね。ともかく、あなた達がうまく動いてくれないと、困るのは私達なのよ」
「な、何の事ですか?」
勇気を振り絞ったのだろう。カチュアがかすかに震えながらもそう問う。けれど女王蜘蛛はそれに答えない。無視するように話を続ける。
「あのメンヘラドラゴンのところで何度も何度も繰り返されてるのよ。これでもう十回目よ……このままだと、あなた達の台詞、一言一句覚えちゃうわ。うんざりしてるのよ、きっと人形ちゃんもね」
あたしには、彼女が何を言ってるのかよく分からなかった。けれど、彼女は何かに怒っていて、そしてその怒りはあたし達に原因があると言いたいという事は理解した。
「わけが分かりません!あたし達に分かるよう、説明してください!」
「あー、まただわ。あなた、ほんと同じ事ばかり言うわね」
腹が立って、思わずそう言ってしまう。けれど女王蜘蛛は呆れてるみたいなため息をついた。
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