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「クラン、お前に渡すものがある」
総帥殿が、オレの前で微笑んでいる。
ーー走馬灯というやつだろうか?
「お前、今日で二十歳になるんだろ?これは俺からのプレゼントだ」
総帥殿の手渡してきた包みの中には、紺色のコートと上級幹部のバッヂが入っている。驚いているオレの頭を、総帥殿は少々乱雑に撫でた。
「これからも、頑張ってくれよ?」
「……言われずとも、そうするつもりです。総帥殿」
オレは総帥殿前に跪く。
そして顔を上げると、目の前の光景は変わっていた。
「座席番号A-42の方、ステージ上へどうぞ!」
どよめきと拍手の中、オレは「彼」の待つ舞台の上へと歩いていた。
ーー随分と脈絡がないな。
心臓の鼓動に周囲からの声も聞こえないまま、オレは愛しいあの人の前に立っている。長い睫毛の奥で輝く琥珀色の瞳がオレを映し、上等な水晶で出来た鈴を鳴らしたよりも遥かに澄んだ声がオレの為だけに発された。
「ふふっ、はじめまして。君の名前を教えてくれるかい?」
只でさえ彼の舞台を生で見て興奮していたというのに、本人に声をかけられては、蕩けるどころかそのまま蒸発しそうな程に顔が熱くなってしまう。ぱくぱくと口を開くも声がうまく出せず、なんとか絞り出した声は、彼に聞かせてしまっては申し訳ないくらいに情けない声だった。
ーーこんな事を思い出すなんて、らしくもない。
「えとっ、あっと……俺っ、はっ……クランクハイト、ですっ……!」
「クランクハイト……素敵な響きだね。さて、クランクハイト君!君のお願いを一つ聞いてあげよう!もちろん、おにーさんに出来る範囲で、ね?」
不意に俺の足が地面から離れたと思うと、彼の顔が一段と俺に近づいていた。柔らかな髪からは、何の香りかはよく分からないが、落ち着くようでいてどこかオレの本能を煽ってくるような香りがして、最早何も考えられなくなっていた。
ーー随分と悪趣味な走馬灯だ。
「あっ……え、あ、あのっ……メレディス、さん!……えっと、どうか、俺に……」
貴方の歌を聴かせてほしい。
そう言おうとした瞬間、オレの体は深い闇の中へと落ちていった。
母さんの声がする。
「ダメよ。あんな化物の声を聞いちゃ」
「アナタは誰も、助けられなかった」
友達の声。
「総帥だって、本当はアンタを見放してる」
社員の声。
ーー何故だ。こんなもの、オレは認めない!
目の前にまた、メレディスが現れた。
その姿はいつのまにかあの少年に変わっていた。
「死ね」
オレの視界が、オレンジ色に染まっていく。
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ミクミキ(プロフ) - 完結しました〜 (2019年9月8日 20時) (レス) id: eada72cfbe (このIDを非表示/違反報告)
ミクミキ(プロフ) - 更新します! (2019年9月8日 20時) (レス) id: eada72cfbe (このIDを非表示/違反報告)
キューブ(プロフ) - 終わりましたですー (2019年9月2日 22時) (レス) id: ed034718e4 (このIDを非表示/違反報告)
キューブ(プロフ) - 更新しますですー (2019年9月2日 21時) (レス) id: ed034718e4 (このIDを非表示/違反報告)
キューブ(プロフ) - 終わりました! (2019年9月1日 22時) (レス) id: ed034718e4 (このIDを非表示/違反報告)
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