フォビアコンプレックス3 (ページ4)

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第九十四話　クランクハイトページ4

「まま、だっこ～」

幼子の愛くるしい声に、俺のメレディスは編み物をする手を止め彼女の体を抱き上げた。にへら、と笑う子供の顔を見ているとひどく胸が痛んでくる。妻の膝の上を孤児に奪われたからではなく、何か別の理由で――

「バンバは甘えんぼさんだな。ほぅら、高いたか～い」

メレディスの腕の中できゃっきゃとはしゃぐバンバが何となくうらやましい。そんな視線を感じ取ったのか、メレディスはいくつかの目をバンバのほうに向けたまま俺を見つめる。

「ふふっ、お前さんにもやってあげようか？」

「別に、そんなことで喜ぶ年じゃねェよ。……それに、こいつらの見てる前でそんなことされたら恥ずかしいだろ」

メレディスはまた笑った。その顔があんまりに素敵だったから、俺はメレディスを思いっきり抱きしめてやった。俺とメレディスに挟まれて、バンバがきゃあ、と楽しそうに悲鳴をあげた。

「わっ……やっぱりお前さんも甘えたいんじゃないか」

意地の悪い笑み。ああ、どんな表情も美しい。

「お前がこんなに美人なのが悪いんだよ」

こんな言葉は今までに飽きるほど言ってやったが、何度言われようとメレディスは顔を赤らめそっと目を伏せるのは変わらない。こいつと二人きりで永遠に過ごせたなら――

「ぱぁぱ、いたい～」

ふっと気づけば、俺とメレディスの胸に挟まれたバンバがつぶれかけていた。

「あっ……ごめんよ。わざとじゃないから……」

泣き出しそうな彼女をなだめようとはしてみるが、俺では何がいけないのか、なかなか機嫌をよくしてくれない。

「お前さんも父親らしくなってきたな。頼もしい限りだ」

「……そうか？……うんうん、さっきのはパパが悪かった。だからもう泣かないで……」

俺が悪戦苦闘していると、メレディスはバンバの体を抱き上げて子守唄を歌い始めた。するとバンバの不機嫌もどこへやら、気が付けばもうすやすやと眠り始めている。

「やっぱり、お前には敵わないな」

「じゃあ、子育ての代わりに仕事をして、一家が飢えないようにしてくれよ？」

「はいはい」

……噂によれば、フォビアが殺されただとかいう話だ。南区のゼーゲンは何か企んでいるようだが、ルースは完全に熱を上げていて企みに気づきそうもない。
家の外での仕事は面倒ごとばかりだし、この前バンバとフォドラを攫おうとしたミュータントが復活してまた襲ってこないとも限らない。

「……ずーっとここで、メレディスと子供たちと、みんなで遊ぶだけして生きてたい……」

メレディスのすらりとした指が、俺にでこぴんを食らわせた。