フォビアコンプレックス3 (ページ23)

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「ルースさん、あなたは私にとって余りに魅力的な方です。私の人生に足りないものを埋める最後のピースに等しい方……ですが、私のこの身では、あなたの人生とは釣り合わない。」

蕩けるような笑みを浮かべたゼーゲン(りそうのおうじさま)は跪き、ルースの手を持ちその指先にキスをした。彼の暖かい吐息が僅かに綺麗に整えた爪の先を擽り、薄く、しかし焼けるように熱い唇が肌に触れる。指、腕、肩の骨を伝い、背骨を駆け降りて骨盤、ひいては子宮にずくずくと喜びの熱が溜まっていく。

「私にはあなたが必要なんです。だから」

そう言いながらゼーゲンの右手はルースの顔の輪郭をなぞり、彼女の白鳥のようなほっそりした首筋へと向かう。かち、という小さな金属音と共に首の一部を覆っていた黒いチョーカーが外れ、アザレアとアイビーを象ったチャームの重みに引かれるままに胸の間を滑り、太ももの上にぽとりと落下した。

「どうか私に、永劫の美の源を分けてください」

酷く甘い、熟れ過ぎた桃を思わせる声音で囁かれたその言葉の真意をルースが理解するかしないかのうちに、ゼーゲンのカフスボタンに仕込まれた太い針が彼女の首を刺した。決して細いとは言えない太さの針が皮膚に突き刺さり、膜を破り、肉を貫き、血管に穴を空けた鋭い痛みにルースの瞼は眼球がこぼれ落ちんばかりに見開かれ、唇は戦慄く。

「……ゼーゲン？」

どういうことだ、と言いたげに唇が動いたが、袖の針がより深くへ差し込まれると、声にならない悲鳴に変わった。刺繍針ほどのサイズの針が、彼女の肌にヴァンパイアを殺すための杭のように突き立てられている。袖を引っ張り針を抜こうともがくが、幾ら永い時を生きているとはいえ男性と女性の筋力差には敵わず、腰や太ももに体重を掛けられているせいで踏ん張ることができず、ただ焦りだけが蓄積していく。破れかぶれで首を大きく振るが大した意味もなく針だけが途中でぽきりと折れただけであった。ゼーゲンがおもむろに針に指をかけ抑え込む力が抜けた一瞬、ルースは両手で力一杯彼を突き飛ばした。

「ゼー、ゲン…！…何故……何故、このようなことをするというの！？」

「理由は先程述べたはずですが。ではじっとしていてください」

彼は再び彼女を拘束しようと腕を伸ばしてくる。彼は目は何処か虚ろで、何かよくないものに取り憑かれた者がする汚泥のようにどろどろと淀んだ瞳をしていた。すがるように、乞うように伸びてきた腕が彼女の肩を掴む。