フォビアコンプレックス3 (ページ18)

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第百四話　ゼーゲンページ18

かつて人類が牛に農機具を引かせていた時代と、異星へと到達した時代とはほんの数世紀程度しか離れていないという。たった数百年で人間は容易く進化を遂げる。にも関わらず、この都市は地下都市が建造されてからーー寧ろ、退化したようにさえ見える。
医療技術が異様に発展して、しかしそれ以外は一切の変化を拒むかのようなこの世界の、不変の主人が私を見つめていた。

今日招かれたのは統治者であるルース女史の邸宅。城と呼んで差し支えないような建築物は、南区のテーマパークにありそうな雰囲気だ。(尤も、私自身城に詳しい訳ではない。きっと西区で独自に生まれた建築様式だろう)
統治者が二人、というのに警備員らしき人物は殆ど見受けられない。門番と、最低限の使用人たちといったところだろうか。

「ルースさん、今日も美しいお召し物ですね」

「そう……かしら。ありがとう」

衣服を褒められただけで照れるような乙女。南区の貧しい少年だった頃に私が聞いた話では、ルースは自らの望まぬものを排除し続ける冷徹な不死身の魔女ということだったが、今の彼女にそのような気配は微塵も感じられない。
私は思い切って、彼女に今日の本題を話すことにした。

「……ルースさん。実は、あなたにどうしても言いたいことがあるんです」

「何かしら？貴方がそのように深刻そうに話すなんて……」

そう言ったルースの声色と表情は、心配よりも期待に満ちている。その程度で、私が靡きはしないというのに。

「ルースさん、あなたは私にとって余りに魅力的な方です。私の人生に足りないものを埋める最後のピースに等しい方……ですが、私のこの身では、あなたの人生とは釣り合わない」

私は椅子に腰掛けている彼女の側に歩み寄り、指輪の跡さえ見当たらない白い手を引いた。

「私にはあなたが必要なんです。だから」

私の右手がルースの顔の輪郭をなぞり、首筋へと向かう。

「どうか私に、永劫の美の源を分けてください」

その言葉の真意をルースが理解するかしないかのうちに、私のカフスボタンに仕込まれた太い針が彼女の首を刺した。