フォビアコンプレックス3 (ページ12)

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第百話　イヴリンページ12

わたしは今日も扉の前に立つ。扉は私のために音もなく開いた。

「こんにちは、フォビア様」

フォビア様はいつものようにわたしに微笑みかけていたけれど、何も言ってはくれなかった。

「なぜ黙っているの？」

地下都市を支えるAIであるフォビア様は、人類と交流する際はこのアンドロイドを使っている。機械の不調なら、瞳にエラーコードが表示されるはず。そう思ってのぞき込んでみても、一筋の光さえ発していない瞳からは、異常事態が起こっているということしか読み取れない。

「フォビア様……」

わたしはすぐに自分の部屋へ戻ろうとした。そこからなら、フォビア様の『本体』に接続可能だから。
けれど、わたしは部屋に戻ることさえできなかった。

「きゃっ！？」

突然、部屋の明かりが消えた。フォビア様の部屋にある唯一の扉は電気がなければ開けることさえできない。
停電なんて、本来起こるはずのない事象。この世界は狂い始めていたのだ。そして、とうとう壊れていく――
信じたくはないが、起こってしまったことはしょうがない。観測されたのならば、「事象Aは起こらない」は否定されるのだから。

わたしの脳内に叩き込まれたマニュアルの執筆者は、この事象を想定していなかった。フォビア様が、このような事象は起こりえないと演算していたから。
わたしはどうすればいい？

どうしてわたしは「人間」なのだろう。

わたしがフォビア様と同じ機械だったら、即座に何らかの解を出せたかもしれないのに。
わたしがロボットだったなら、助けが来るまでスリープ状態になってしのぐことができたのに！

「フォビア様、どうしてこんなことが予測できなかったの？どうしてわたしは生かされているの？」

暗闇の中、わたしの呟きだけが反響する。
目が痛い。だんだん暑くなってきた。
のどが渇いたし、お手洗いにも行きたい。

どうして、わたしは人間なの？