フォビアコンプレックス3 (ページ2)

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第九十三話　ジョバンナページ2

あたしは、目の前の男にそれを突きつける。

「あんた、飯龍泊の知り合いなんだろ？この子を任せるからな」

　男は困惑している様子だった。無理もないだろう。窓からいきなり見知らぬ女が……義足義手のナイスボディな美女が小包み片手に飛び込んできたんだから。

　しかもその小包みの中身は小さな赤ん坊で、そしてそれを任せると言われたのだから。突然小さな命を預けられた男は、どう反応して良いのか分からない様子だった。

　この赤ん坊というのは、もちろんあの赤ん坊だ。レヴィアタンが飯龍泊から奪った赤ん坊。あいつはこの子を実験体か何かに使うつもりだったらしいが、そうさせるわけにはいかなかった。あたしには、それが許せなかった。

　無論、この男に任せるのが本当に安全だとは思えなかった。もしかすると、捨ててしまうかもしれなかった。しかし孤児院に預けたら、あの人魚は簡単にそれを見つけ出せる。孤児院に預けられた子供は戸籍を得て、それがデータとしてコンピュータに乗ってしまうから。

　自分で育てるというのも考えたが、そういうわけにもいかない。あたしの義足義手はあの人魚が管理しているし。

　ならば、この男に預けた方がまだましだ。飯龍泊とかなり親しい知り合いなんだから。

「その子の名前は……お前が決めな。一つ言うなら、龍泊はリサってつけようとしたらしいぜ。まあ、どうだって良いけどよ」

　赤ん坊は眠っている。

　死産だったはずの赤ん坊なのに、この子は生まれもってのゼロ生物だった。ゼロ生物は不死身。しばらくすると息を吹き返した赤ん坊はわぁわぁと泣き始めてたな。

　ふわふわして、真っ黒な髪の毛だ。頭からは、人間にはないはずの虫の触覚が生えている。眼球だって、片方は青い複眼だし、背中には、まだしわくちゃな蝶々の羽が生えていた。明らかに人間ではない赤ん坊。

　男は赤ん坊を見て困惑していたが、やがてこちらを見て、小さく頷いた。

「そうか」

　あたしは微笑んでみせた。うまく微笑めただろうか？ずっと笑っていなかったから、表情が作れないような気がした。でも、気持ちは伝わったみたいだから、それで良いよね。

　そのまま、窓から飛び降りる。急いで研究所に戻ろう。