人間フィロソフィー (ページ2)

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第1話　マーガライトページ2

「……」

　目を閉じて、壁に張りついている。こびりついたしぶとい汚れみたいに、あるいは獲物を待つ蜘蛛みたいに。私はそのまま、意識を集中させる。

　私の住むこの山には、魔法の糸がたくさん仕掛けてある。それらは私の神経でもあり、何か刺激があると、それを私に伝えてくれる。

　十時の方向、五キロメートル先かしら？何かが通ったみたい。私は動かない。けど、何もしないわけじゃない。そこにいる誰かに、魔法をかけてあげる。

　幻惑の魔法。

　ありもしない道しるべを見せて、歩かせる。獣道ですらない、過酷な道。それでもきっと、その誰かは歩き続けるわ。これで助かるだとか、そんな希望を胸にしてね。そしてしばらくすれば、その人は辿り着く。私の家に。

　そうすれば、私は美味しい獲物にありつける。疲れ切ったその身体には、戦う力なんざ、残っていないでしょう？希望を踏みにじられて、絶望しているでしょう？それに、あなたの仕事は簡単よ？私と子供達のご飯になるだけなのだから。

　え？帰してほしい、ですって？助けてほしい、ですって？

　馬鹿ね、そんな事、するわけないじゃないの。折角の獲物を逃がすわけがないでしょう？それにね、私の子供達はお腹が空いているの。美味しいご飯を、今すぐにでも食べさせてあげなきゃいけないの。

　まあ、食料はまだ残ってはいるわ。この前は大きな熊を仕留めたから、もうしばらくなら生きていけるでしょうね。ああ、だからって助けるわけにはいかないわよ？人間は美味しいんですもの。それに、万が一もあるでしょう？

　大丈夫よ。あなたは私の糸にグルグル巻きにされるだけ。そこで待つだけよ。子供達のディナーになるのをね。まあ、その前にお腹が空きすぎて死ぬのでしょうけど。

　……殺して縛る？そんなわけないじゃない！日持ちが悪くなるわ。あなたは保存食になるのよ？死ぬその時まで生きてもらわなきゃ、困るわ。

「お母さん、ご飯まだー？」

　あら、もう食べたいの？そうね。すぐに終わらせるわね。だから、あと少しだけ待っていてちょうだい。

　ほら、さっさと終わらせるから。大人しくしておいてちょうだい。