4 ページ4
和哉はデータベースから職員の名簿を眺めていた。情報部署中級職員である彼には一般職員に公開されていない情報を得る事もできたが、彼はそれをせず、一般職員に提示される名簿を見ていた。
数多の職員がいなくなった。いや、はじめからなかった事にされていた。和哉はそれらのしるしであるこの改竄された名簿を眺めていた。消えた職員の中には彼の知り合いも少なからずいた。だが和哉はもはや思い出しもしなかった。彼が一般公開されている名簿を見ていたのはただの気まぐれでしかなかった。
彼は自身の仕事を思い出し辟易した。彼の新たな上司である情報部署チーフW681、レイチェル・H・タローランは謎の多い男だった。ある日突然現れ、チーフとなったこの男に対して疑念を抱く職員は多かった。出自も入社経歴も何もかもが分からない。どこの馬の骨とも知れない男に従う事は、プライドの高い和哉にとって不愉快な事であった。
「すぐに終わる仕事。さっさとやって」
幽鬼のごとくやつれ、ぎょろりとした目を持つその赤毛の男は、和哉に会うなり新たなタスクを与えてきた。和哉は苛立ち悪態をつこうとしたが、仮にも相手は上層の人間。和哉は渋々引き受け、そしてこなしきった。
職員用談話室の隅、自販機の前で飲み物を眺めながら彼はこの事を思い出し、舌打ちをした。彼はメロンソーダを買い、その手に持つ。摂氏零度を下回るその体温に瞬く間にメロンソーダは凍りつく。和哉はそれを気にも止めず、自室兼作業室にしている避難用シェルターへ戻り、ナイフでボトルを引き裂く。完全に凍りついているメロンソーダを砕き、シャーベットのようにして食べた。彼は仕事終わりにジュースをこうして食べるのが好きであった。彼は甘党なのだ。
10人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ