記憶処理 ページ18
「ご機嫌よう魔法少女、気分はどうだ?」
「ご機嫌ようイグさん。あなたが今週の特殊職員なのね」
入室するイグさんに呼びかける。彼女からすればあたし達とは今日出会ったばかりなのだろうけど、彼女はちょっと眉を潜めただけだった。
カチュアはそんなあたし達を見て軽く首を傾げる。どうやら思い出せないようだ。あるいはそもそも出会ってなかったのか。
「やはり知っているのか。それよりその様子だと思い出したようだな」
「そうみたい。カチュアはまだのようだけど、問題ないでしょ?ついでにやっといてくれる?」
「もちろんだ……伊村、記憶処理の用意は?」
イグさんは携帯通信機で誰かに連絡をとる。その間、カチュアがあたしに話しかけてきた。少し不安そうに。
しかしそれも仕方ない。カチュアはまだ思い出していないのだ。だけど、そっちの方が良い。あれは思い出してはいけないものだ。
「華璃ちゃん、何なの?あの人は誰?記憶処理って、いったい……」
「大丈夫だよカチュア。あたしがついてるから」
「お願い華璃ちゃん、教えて。私分からないの」
「分からないままで良いんだよ」
「魔法少女、記憶処理の準備ができた。早く行くぞ」
カチュアの言葉を遮るようにイグさんは言う。いや、実際に遮ったのだろう。不満げなカチュアの視線を無視して、あたしは部屋を出る。
記憶処理室へ向かう最中、イグさんが質問した。
「魔法少女、歌姫の夢を見たそうだな。どんな内容だった?」
「あの日の夢よ。姫君は歌っていたわ。楽器も演奏していたわね。あ、演奏してた楽器はもちろん……ね?言わなくても分かるでしょ?」
「そうか。我々も悪趣味なものだ」
「前回の分のが薄れたからじゃないのかしら。これはただの夢のようだったし」
会話はそこで途切れる。目的地に辿りついたからだ。部屋の中には注射器とか、薬品とか、吸引器が置いてある。
背中から大量の触手を生やした若い白髪の男性が、部屋の中央に置かれた椅子の傍に立っていた。彼が伊村さんなのだろうか。やや不機嫌そうにしている。
「随分と早かったですね」
イグさんはそんな皮肉を無視して、あたし達に手招きする。先にあたしがやる事にした。カチュアはかなり不安そうだったから。
椅子に座って、吸引器を取り付けて貰う。後は簡単だ。記憶処理薬を吸引するだけ。あたしは目を閉じた。光でまぶたの血管が透けて、赤く見える。でもそれも、だんだんと黒くなっていく。これでまた、忘れられるのだ。
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