逃避 ページ43
それからしばらくも、あたし達は心穏やかに過ごせた。
たまに脱走はあったけど、案外簡単に制圧できたりして、それなりにうまくやれた。あたし自身も、夢の中で顔見知りになれた職員さん達とまた仲良くなったりした。
ただ、気がかりだったのはカチュアの事だ。たまに、あたし達はあんな風に、心を病んでしまう。現実だと思っていたものが壊れて、まるで自分が皆に忘れられてしまったような、そんな感覚があったし、何より、また起きてしまったのかって、また死ななくちゃならないのかって。
永遠に続きそうな苦行で、つらかった。
今回は、あたしじゃなくてカチュアだけだった。二人一緒にああなってしまうと、何度夢から覚めてもしばらくはああだったから。心を元に戻すためだけに、何度も何度も死に続けなくちゃいけなかった。
大丈夫。ぎゅっと手を握る。少しだけ落ち着いたのか、カチュアは微笑んだ。
あたしも微笑み返した。あたしがこうなった時、カチュアはあたしにこうしてくれたんだから。あたしの隣には誰かがいるって、あたしは一人じゃないんだって、そう理解できた時の安心感ったら、なかった。
「大丈夫だよカチュア。きっと今度こそ夢じゃないよ」
こう言えば、彼女はにっこり笑ってくれた。本当に嬉しそうに。だってそうだ、ここが本当に現実なら、あと一回死ねばそれで終われるんだから。夢の中なら無限に死に続けるんだもの。
現実ならばきっと死ねるに違いない。あたし達はそう考えている。
それが本当なのかは知らない。あたし達は今まで、ずっと夢の中で過ごしてきたんだから。何度死んでも目が覚める。今いるここが夢か現実なのか分からないけど、どうか現実であってほしいとあたし達は思っている。現実なら、苦痛から解放されるんだから。
カチュアは笑顔のまま、自分の首を締め上げる。ぺきゃりと音を立てて、へし折れる。
あたしは彼女の胴体に微笑んで、その手をとった。指を搦めて手を繋ぐ。彼女が心安らかにいられますように。どうか、ここが現実でありますように。
そう思うけど、本当はカチュアを励ました時に、こう思ったの。
もしかすると、ここは本当に現実なんじゃないかって。
あたしも少しつらくて、だからあたしは自分のこめかみを指で貫いて脳をぐちゃぐちゃにした。これで死ねるよね？もう苦しいのは嫌なんだもん。
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