談笑 ページ26
それからしばらくは、案外穏やかなものだった。アラームも鳴らなかったし、予知夢もない。
「スージー、おはよう。どうしたの?顔色悪いけど」
暇を持て余して、一人で廊下を歩いていると、前の方からスージーが。でも様子がおかしいな、顔色が悪い。心なしか、足取りもふらついているような。思わず呼び止め、駈け寄る。
けど、彼女は小首をかしげて、ちょっと不思議そうに言った。その拍子に、彼女の太い三つ編みが、見かけよりもずっと軽やかにふわりと揺れる。
「あなた、どなたですの?」
あ、しまった。はっとしてしまう。
予知夢の影響で、現実は会っていない人にも親しげにしてしまう事があったのだけど……そうか、彼女と仲良くなったのは予知夢の中でだったんだわ。
そういえば、この前のあれは、どこから現実で、どこから夢だったのかしら。
「ごめんなさい、挨拶を忘れてたの。あたしはA-121-B、魔法少女の華璃だよ。あなたの事、職員さんから聞いてたから……ねえ、具合悪そうだけど大丈夫?」
適当な誤魔化しだけど、スージーは簡単に信じてくれた。彼女はうーんと小さく唸りながら、頭を引っ掻いている。唸るたびに長く鋭い牙が露出して、彼女が吸血鬼である事をあたしはふと思い出した。
「微妙にだるいんですの。食欲もないし、それに何だか熱っぽい気がしますわ」
風邪、なんだろうか?何となくそんな感じはする。彼女は首をふるふると振って見せた。
『B-729-Yが脱走しました。付近の職員は速やかにB-729-Yを制圧してください。繰り返します。B-729-Yが脱走しました。付近の職員は速やかにB-729-Yを制圧してください』
『特殊部隊FairyTaleはB-729-Yを制圧してください。繰り返します。特殊部隊FairyTaleはB-729-Yを制圧してください』
「きゃっ、いけませんわ。私お仕事がありますの!ではご機嫌よう!」
アラームが鳴ると、彼女は慌てたように身を翻した。どうやら、特殊部隊に所属しているらしい。特殊部隊という事は、彼女以外にも隊員はいるのだろうか?
今度聞いてみようかな。
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