魔法少女の事 ページ22
「辛かったですね、もう大丈夫ですよ」
駆けつけてくれた野々華さんは、あたし達にそうねぎらいの声をかけてくれた。それだけで涙が溢れ出て、気が付くとあたしはカチュアと一緒に野々華さんに抱き締められていた。
「あなた達のおかげで、ここは平和でいられるんです。ありがとうございます。いつも辛い思いをさせて、ごめんなさい」
あたし達が落ち着くまで、野々華さんはそうしてくれた。
しばらくそうしていると、どうにか気分が落ち着いた。痛みや苦しみの記憶が消えたわけじゃないけれど、やっぱりこうしていると、それらはいくらか和らいだ。心の安寧を取り戻す事ができたような気がする。
そっと彼女から離れて、深呼吸をする。大きく息を吸って、吐いて。吸って、吐いて。リラックスしなくちゃ。まだ心臓はどくんどくんと大きく脈打っているから。
それがやがて穏やかになってきたから、あたしは深呼吸をやめる。
「ありがとうございます、野々華さん。あ、そうだ!散歩したいんですけど、大丈夫ですか?気分転換というか、リフレッシュしたくて」
「ええ、もちろん大丈夫ですよ。ちょっと待っててくださいね」
野々華さんは通信機で誰かと話をすると、すぐに頷いた。
「五時間ほど、散歩して大丈夫ですよ。食堂に行っても良いですし、他のALPHA寮棟の皆さんと遊んでも大丈夫です。もちろん、他の職員さんとお話しても良いですよ。けど、絶対に迷惑はかけちゃだめですからね」
「はーい!カチュア、行こうよ!」
「待ってよ華璃ちゃん!あ、野々華さん、ありがとうございます!」
カチュアの手を引いて、部屋を出た。合金の自動扉は音を立てずにあたし達の背後で閉められる。
さて、今日はどこに行こう?食堂に行こうかな。BETA寮棟の職員さんと遊ぼうかな?美味しい食べ物を食べるのも良いし、友達と遊ぶのだって悪くない。何か楽しい事をして、ハイになりたいの。あ、BETA寮棟には売店もあるし、それを見るのも良いかな。ショッピングなんて、お洒落じゃない?
早くこの事を忘れたい。自分がどうやって死んだかなんて、覚えていたくない。引き裂かれて、握り潰されて、苦しみ抜いた記憶なんてあたしはいらない。
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