制圧作業 ページ13
それは若い女性のような姿をしていた。きっちりと着込んだスーツや、人型である事から、彼女が元は下級職員であったろう事は理解した。
だがそれの周囲は奇妙な靄がかかっている。
それはひどく大人しく見えた。あたし達はそれを見ている。下手に刺激して暴走させたら堪らないからというのもあったけど、どうもそれは人を殺せるほど凶暴には見えなかった。
「やあ二人共、アリスはここかい？」
「あ、Jackさん！……Jackさん？」
聞き覚えのある声がして振り向くと、そこにいたのはJackさん。そうか、確かJackさんの管理番号はB-033-Bだったっけ。そう思っていたんだけど、何か違和感があった。
よく見ると、すぐに気付いた。瞳の色だ。前に見た時は茶色っぽかったんだけど、今は赤い……すごく鮮やかな赤の瞳をしている。表情や口調も、明るくて爽やかだ。まるで別人のように。
「始めまして。僕はハートのJackだよ。……あれ、どうして君達は僕の事を知っているの？職員の人に聞いた？」
その言葉にも驚いた。始めまして？彼はあたし達の事を覚えていないようだ。人が変わったようになっているのと、関係あるのだろうか？
だが、それらの疑問は一旦飲み込む。今は目の前のあれが先なのではなかろうか。
「そうね、そうだったわ。始めましてハートのJackさん、あたしは魔法少女の華璃と、こっちはカチュアよ。よろしくね。さっきは別のJackさん……友達のJackさんと間違えちゃったの。ほら、Jackって有名な名前でしょ？同じ名前の人って、よくいるじゃない。ね？」
無茶がある言い訳だったけど、赤い目のJackさんは納得したみたいに頷いた。もしかすると、あまり物事についていちいち考える性格ではないのかもしれない。
「そうだね。今日はあのアリスをやっつければ良いのかな？」
アリス、というのはあの女性の名前なのだろうか。もしかすると、Jackさんの知り合いかもしれない。そう思うと気が重くなりそうだが、何の解決にもならない。あたし達はステッキを手に持ち、それに近付いた。
近付いてよく見ると、気付く。目の前の幻想体は、目が見えていないようだった。どこかへ行こうとゆっくりと、慎重に進んでいる。
「ごめんなさいね」
一言だけそう言う。その声に反応して、彼女はこちらを振り向いた。目の焦点が合っていない。やはり、目が見えないようだ。
あたしは躊躇いなく、かつて人間であったであろう彼女の首を、捻り切った。
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