第五十七話 薔薇宮 ページ9
「レヴィアタン!あなた、何をしていましたのよ?!」
私は目の前の男の胸ぐらを掴みあげて、怒鳴りつける。二人きりだからできる事。普段の私ならちゃんと猫被りができたけど、今はそれどころじゃなかった。
怒りで目の前が真っ赤になるのが分かる。
「なぜこんなにもミュータントが暴走してますの?!秘密結社の襲撃を理由にすれば許されるわけではなくってよ?!」
「仕方ないじゃないか、悪いのはワタシじゃなくて秘密結社だよ。それより、話したい事があるんだけど」
「それより?これより大切な事があるものですか!ミュータントの暴走のせいで、どれだけの損害があったと思っているの?!東区は大打撃を受けたのに!このままでは、西区ごときに負けるかもしれないというのに!」
怒りと焦りで、冷静な判断が、できなくなる。だって、そうよ。東区を発展させないと、愛しい妹と夫が殺されるかもしれない。
二人を殺すのがこの男である事も忘れて、睨みつける。
前々から気に食わなかった。すべてを見透かしていると言わんばかりの紫色の瞳はどんよりと曇っていて、異様なまでに白く濡れた肌も相まって、まるで死人……水死体のようだ。妙に上から目線で事を進めていくのも嫌い。
そして何より、私の愛する人達を、傷つけている事が、許せない。
「うん、まあそれはどうだっていいんだけど」
しかしレヴィアタンはそうあっさりと言い放つ。怒りのあまり、ぽかーんとしてしまう。きっと、ものすごいまぬけ顔だろう。
「ワタシね、実験がしたいんだ。キミはもう用なしだからさ」
実験?どういう事?用なし?頭がついてこなくて、その単語だけがぐるぐる廻る。
「ゼロ生物はカーレッジを注射されると死ぬけど、それ意外にもう一つだけ死ぬ方法があるんだよ。それが絶望」
置いてけぼりの私をそのままに、レヴィアタンは尾鰭をゆらゆらと動かした。
彼の下半身は魚で、その形状はかつて地上の深海で暮らしていた謎多きリュウグウノツカイを彷彿とさせる。優雅にひらりひらりと揺れるその尾鰭は、まるで宙を舞い散る紅葉のようだった。
「キミにはもう生きていてもらっても得しないから、最後に実験してみようかなって」
彼の薄い唇が、言葉を紡ぐ。
私にとっての、何より深い絶望を。
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ミクミキ(プロフ) - 終わりました! (2019年12月16日 22時) (レス) id: eada72cfbe (このIDを非表示/違反報告)
ミクミキ(プロフ) - 更新します! (2019年12月16日 22時) (レス) id: eada72cfbe (このIDを非表示/違反報告)
キューブ(プロフ) - 更新しましーた (2019年12月16日 22時) (レス) id: ed034718e4 (このIDを非表示/違反報告)
キューブ(プロフ) - 更新しまっす (2019年12月16日 21時) (レス) id: ed034718e4 (このIDを非表示/違反報告)
ミクミキ(プロフ) - 終わりました! (2019年12月10日 22時) (レス) id: eada72cfbe (このIDを非表示/違反報告)
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