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かっ、かっ、かっ。
ルースの白く細い指が木目の美しいクルミ材のテーブルを叩く度、硬質な音が室内に響き渡った。テーブルの天板の上にゼーゲンが去った応接室には彼の纏っていた爽やかなフローラルの香水の芳香が僅かに残っていて、ルースの鼻筋や頬を撫でるかのようにラベンダーやローズマリー、クラリセージにゼラニウムといった草花の香りが漂っている。
それらのせいでルースは嫌が応にも彼のことを意識してしまい、彼が言い放ったプロポーズ染みた言葉のことも思い出してしまう。小さな舌打ちの後にテーブルを叩いていた指を止めると、ケーキスタンドの上段の皿に手を伸ばす。そこには食べようとして忘れていたスイーツがしょんぼりとした表情で鎮座していた。ルースは残されたマカロンを親指、人差し指、中指の三本で掴み、口に放り込む。
ぐわしゃ、と音を立ててマカロンのさくさくの生地が上下の歯に挟まれ砕かれた。大小様々な破片は薄いピンク色のクリームと濃いストロベリーレッドのソースと混ざり合い、口のなかでマーブルカラーになっていく。それを側に控えていたメイドが差し出したミルクティーで胃に流し込み、ラングドシャを口に含む。チョコレートクリームのほろ苦さと軽やかな歯ごたえのクッキーの甘みの比が彼女好みの配分になっており、厨房で甘味好きの主人のために存分に腕を振るってくれたパティシエには多額のボーナスを出そう、とルースは決意する。
「あなたと、あなたの治めるこの地域は美しい。」
「私は……あなたのことを好いているのかもしれません。」
「私自身は、何があろうとあなたの味方となりましょう。」
悩ましげな吐息、甘やかな視線、蕩けるような微笑み。全部、ルースが知らないものである。まるで恋人に向けるような、自分を「女」として見ているかのような表情で見てくる人間はこの世にこれまで何人居ただろうか?
ぼんっ!!
とルースの顔が一瞬にして林檎のように赤くなる。自分の治める西区の住人からはその美しさと才覚から女傑だなんだと祭り上げられ、他の区の住人からは彼女の持つ不死性から化け物と恐れられた彼女だったが、なんと驚いたことに「
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ミクミキ(プロフ) - 終わりました! (2019年12月16日 22時) (レス) id: eada72cfbe (このIDを非表示/違反報告)
ミクミキ(プロフ) - 更新します! (2019年12月16日 22時) (レス) id: eada72cfbe (このIDを非表示/違反報告)
キューブ(プロフ) - 更新しましーた (2019年12月16日 22時) (レス) id: ed034718e4 (このIDを非表示/違反報告)
キューブ(プロフ) - 更新しまっす (2019年12月16日 21時) (レス) id: ed034718e4 (このIDを非表示/違反報告)
ミクミキ(プロフ) - 終わりました! (2019年12月10日 22時) (レス) id: eada72cfbe (このIDを非表示/違反報告)
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