フォビアコンプレックス2 (ページ35)

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第八十二話　ゼーゲンページ35

ルース女史と締結した条約、南区の軍事力を提供する謝礼として得た西区の古城。
私は今、南区最大の都市にある娼館へと足を運んでいた。

「ゼーゲン様、次はどこに行くんですか？」

「ここから先は私一人で向かいます。ウィル、貴方は私の屋敷で待っていてくださいね」

はぁい、とやや不満そうな返事をしてウィルはこの場を立ち去った。これから向かう案件は、私のとても個人的な事情によるものなのだから彼を巻き込むわけにはいかない。それに、幼子のようなウィルがいては何かと不都合だ。
私は遠くに控える護衛たちの視線を感じながら、娼館に足を踏み入れた。

「いらっしゃいませ！……あなたは！」

私が顔を向けるだけで黄色い声が上がるのが分かる。

「毎度ご贔屓にしていただきありがとうございます、ヴィントシュティレ卿」

「ええ、早速彼女の部屋へ案内してくれますか？」

「では、こちらへ」

案内された部屋の扉を開けると、ふわりと香る花束と香水。
私の求める初恋の人は、幾人もの男たちからのプレゼントに囲まれた天蓋付きのベッドでクッションを抱きかかえたまま座っていた。昔と変わらない凛とした黒い瞳がじっと私を見つめている。

「こんばんは、ストレリチア……いや、シオン」

「昔の名前で呼ばないでちょうだい、王子サマ気取りのお馬鹿さん」

私はそっと彼女の隣に腰掛ける。
幼馴染の彼女は、性格は変わってしまったがその美貌は変わらないままだ。

「……私は、貴方の望むような白馬の王子様にはまだほど遠いのですか？」

「あたしがいつまでも夢見る乙女だと思わないで」

「では、一体どうすれば、貴方は私と共に生きてくれますか？」

「……そうね……あたしの美貌に皆が振り回されていくのを見るのが好きなの。だから……永遠の美と自由をあたしにちょうだい。そうしたら、あなたの女になってあげてもいいわ」

「わかりました。必ずや、貴方のために望むものを用意してみましょう」

「ふふっ、お願いね？せいぜい頑張ってちょうだい」