フォビアコンプレックス2 (ページ15)

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第六十三話　レヴィアタンページ15

「ああああああああああ！このクソ野郎！地獄に堕ちろっ！」

　目の前の女性はそう叫んでいる。目には涙を浮かべ、唇を噛み締めて。けど、それらの動作は、ワタシの心を動かしたりしない。

　さっきからこの人はうるさすぎる。別に、ワタシがワタシの妹をどんな風に殺したって良いじゃないか？それに、ワタシの妹とキミは赤の他人じゃないか。なぜそんなに怒るんだ？

「お前には心がないのか？！妹なんだろう？！どうしてこんな……！」

　彼女……薔薇宮小町の“残骸”は、憤りをどうにかするためにか、ワタシの下半身をがんがんと蹴り上げた。

　あの後、アルラウネ種の薔薇宮は死んだ。“殻”の穴という穴からずりずりと出てきて、そして出てきた途端に枯れて、地面へぽとりぽとりと落ちてきた。

　とても素晴らしい死に様で、ワタシはそれに満足して帰ろうとしたのだけど、薔薇宮が“殻”にしていた少女、つまり薔薇宮の“残骸”がまだ生きていたので、持ち帰って治療したのだ。

「うるさいから黙ってよ薔薇宮」

「私はあの女じゃない！」

　途端に反論する。そうだね、薔薇宮はもう死んだのか。寄生虫と宿主を間違えるなんて、ワタシってばうっかりしてるなぁ。

「黙ってよジョバンナ・ローズ。キミに口出しされる覚えはないよ」

　本名で呼ぶと、“残骸”……ジョバンナは、もう何も言わず、ただこちらを睨みつけるだけになった。よし、これで静かになった。ワタシは喜々として手を動かす。

　ジョバンナはアルラウネ種の始祖であるスザンナ・ローズの実の姪だ。スザンナに寄生された彼女は『薔薇宮小町』を名乗り、千年にも渡って東区を統治してきた。これはひとえに、スザンナが優秀な女性だっただからだろう。

　……まあ、妹や夫を愛しすぎていたせいで、ワタシに弱みを握られて殺されたんだろうけど。

「ついでにサキュバスも終了処分、と。よし、これで今日の仕事は片付いた」

　言うと、黙っていた彼女が口を開く。

「……あんた、人の心とかないんだな」

「人の心？道徳心と呼ばれるものだろう？ワタシには必要ないよ」

「そうか、あの女みたいだな。いっぺん死んでみるかい？」

「無理だよ。ゼロ生物は絶望するかカーレッジをぶち込まれない限りは不死身だもん」

　それだけ返して、ワタシは手元の書類をぺらぺらとまくっていた。時間はあるし、明日の分もやろうかなぁ？