第六十二話 エーナ ページ14
目の前が、真っ暗だ。
これは夢だろう。何となく分かる。私は今、暗闇の中にいるのだ。上も下も分からない。地に足着いているはずなのに、浮かんでいるようだ。奇妙な浮遊感に、落ち着かない。
光源はどこにもないのに、自分の身体だけはよく見えた。暗闇に紛れそうな黒い髪の毛が、頭を振るたびにさらりと揺れる。
ここはどこ?妙にあたたかいし、濡れているような感覚がする。すぐそばに生物の脈動を感じたが、それが怖いものだとは不思議と思えなかった。
いつの間にか、暗闇は赤に染まっていた。私はその中で、ふわりと浮き上がる。頭がぼんやりとしてきて、そして……
……。
……。
?
ぼんやりする頭をかきながら、起き上がる。ああ、そういえば、あれは夢だったのね。ひどく心地の良い夢だったから、目覚めたくなかったわ。
固く冷たい床に寝転がっていたせいで、背中が痛い。せめて布団の上で寝るべきだっただろうか?埃が窓からの明かりに照らされてきらきらときらめくのを眺めながら、私はごちる。身体にくっついた埃をはたいて落とし、私はようやく一呼吸吐いた。
いつからここにいたのか。それは覚えていない。多分数日前だろうか?それとも、数週間前?
ともかく、つい最近の事だ。私はいつの間にかこの場所にいて、いつの間にかここで生活をしていた。ここはどうやら、長い年月放置された研究施設の廃墟か何かのようで、そこかしこに、研究資料が入っていると思わしきファイルや本棚、塗装が変色した何らかの機械などが置かれていた。
しかも奇妙な事に、大きな植物のようなものがこの廃墟全体を侵食しているのである。巨大な蔦植物のようなものが、崩れかかった廃墟を支えていた。
ここがどこかなんて、考えても無駄だ。なぜかは分からないけど、ここしばらく何も食べてないのに、私はそこまで空腹でもない。食料の心配はしなくて良さそうだし、あまり不安になる必要はないでしょう。そう思いながら、窓から空を見上げる。
空。普通の、空だ。天気も良い。クリーチャーが跋扈して、空気が淀んでさえいなければ、ピクニックにでも行きたいくらいである。
けど、当たり前の空なのに、見ていると涙が出てくる。
遠くには大きなドーム型の建物が見える。ここら辺に落ちてた資料によると、あれはどうやら地下シェルターらしい。地下シェルターか。そこなら、空なんて見えないのかもなぁ。そんな事を呟いて、私はまだ痛む背中をさすった。
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ミクミキ(プロフ) - 終わりました! (2019年12月16日 22時) (レス) id: eada72cfbe (このIDを非表示/違反報告)
ミクミキ(プロフ) - 更新します! (2019年12月16日 22時) (レス) id: eada72cfbe (このIDを非表示/違反報告)
キューブ(プロフ) - 更新しましーた (2019年12月16日 22時) (レス) id: ed034718e4 (このIDを非表示/違反報告)
キューブ(プロフ) - 更新しまっす (2019年12月16日 21時) (レス) id: ed034718e4 (このIDを非表示/違反報告)
ミクミキ(プロフ) - 終わりました! (2019年12月10日 22時) (レス) id: eada72cfbe (このIDを非表示/違反報告)
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