第五十九話 薔薇宮 ページ11
「……は?」
馬鹿みたいな声が出た。
レヴィアタンは、珍しく無表情ではなかった。顔をかすかに歪めていて、まるで爆笑コメディを見て噴き出しそうなのを必死に堪えているみたいだった。
私はその言葉の意味が分からなくて、呆然とする。
「キミの妹であるノスフェルトゥは殺処分したし、月兎は秘密結社の暴動に巻き込まれて死んだよ」
「……嘘」
「嘘じゃないよ。ほら、証拠だってある」
彼はホログラムを見せてくる。撮影したものなのだろうか、そこには妹のフェシリアがいた。よどんだ目をしていて、まるですべてに絶望したかのような、愛しい妹が。
「やめて」
「見てよ。ノスフェルトゥは大樹の根っこに引きずり込まれた。きっと内部でどろどろに溶かされたんだよ」
「やめてよ。見たくない、聞きたくない」
目をぎゅっと閉ざして、耳を塞ぐ。けど、その言葉が途絶える事はなかった。
「一気にじゅわって溶けたのかな。それとも、表皮からゆっくりと溶かされていって、身体が壊れていく感覚に発狂したのかもよ?」
「やめてったら」
「月兎は灼熱の中で死んだよ。彼は凍える世界でしか生きられなかったからね。でも生命力はあったから、たくさん苦しんだよ。もっと生きたかったんだろうね。まあ死んだけどね、あはっ!」
「やめて」
「あ、そうそう。月兎、最期に何て言ったと思う?」
「やめてよ……」
「スージー、ってさ。ねえ、キミの本当の名前ってスザンナでしょ?スージー良かったね、夫に愛されてて!」
その、瞬間。
私の中で、何かがはじけた。
「……ああ」
無駄だったんだ。何もかも。
私がここまできた意味なんてなかったのね。すべて無駄だったのね。誰も助けられなかったんだもの。フィーも、和哉さんも、だぁれも。
「ああ」
私が生きてきた意味ってあったの?私は、愛した人達と一緒にいられれば、それだけで幸せだったはずなのに。
「ああああ」
無駄だっと。すべて無駄だった。助けられなかった。救えなかった。二人のいない世界に何の意味があるの?
二人は私の世界だった。二人がいない世界なんていらないわ。私を愛してくれない世界なんて、私にはまったく必要でもない。
「ああああああああああ!!」
膝から崩れ落ちて、身体に力が入らない。大切な何かが、全身から抜け落ちていく。すさまじい痛みと、それ以上の虚無感に、視界が黒くにじんで、そして何も見えなくなった。
9人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ミクミキ(プロフ) - 終わりました! (2019年12月16日 22時) (レス) id: eada72cfbe (このIDを非表示/違反報告)
ミクミキ(プロフ) - 更新します! (2019年12月16日 22時) (レス) id: eada72cfbe (このIDを非表示/違反報告)
キューブ(プロフ) - 更新しましーた (2019年12月16日 22時) (レス) id: ed034718e4 (このIDを非表示/違反報告)
キューブ(プロフ) - 更新しまっす (2019年12月16日 21時) (レス) id: ed034718e4 (このIDを非表示/違反報告)
ミクミキ(プロフ) - 終わりました! (2019年12月10日 22時) (レス) id: eada72cfbe (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ