フォビアコンプレックス (ページ10)

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第九話　飯龍怕ページ10

弼君が帰ってしばらく、私はぼんやりとテレビを見ていた。適当なドラマを視聴する。そこまで面白くない。

『アナタの心に虹がかかる！ミュータントサキュバスことフィリアから抽出した物質サキュバシウムは、あなたの一日を快適にする事に間違いなし！お問い合わせはこちらの電話番号まで！』

　男性ナレーターの勢いの良い解説と小粋な音楽をバックに、つややかな紫色の髪をした愛らしい女性が微笑んでいる。CMの方がまだ面白そうじゃないの。早速その番号にかけようとしたけど、右下に小さく記載されていた『この物質を摂取した事によるあらゆる問題について当局は一切の責任を負いません』というテロップに気付き、やめた。

　ふと時計を見上げると、もう六時になるところ。お客さんも来ないみたいだし、ちょっと早いけど閉店しましょう。出入り口に『閉店』と書かれた札を下げて、石畳の街道へと躍り出る。

　特にやる事ももうなかったから、散歩でもする事にしたけども。行き先なんて考えてない。近所のお茶屋さんのところにでも遊びに行きましょう。軒先では、若い男性が従業員の少女と一緒に片付けをしている。どうやら彼らもそろそろ閉店するようだ。

「春川さん、こんにちは！調子はどう？」

　すると彼、春川さんは、ちょっぴり驚いたような顔をする。けど、すぐにいつもの表情に戻った。

「飯さんやないの、こんにちは。こっちはぼちぼちってとこや、そちらはどう？」

「それなりってところかしら。あ、みみこちゃんもこんにちは。いつも頑張ってるわねぇ、みりあちゃんは元気？」

「はい、こんにちは。みりあも元気ですよ」

　従業員の一人である少女、みみこちゃんはほがらかに笑う。ころころと鈴の鳴るような声が響くたびに、三つ編みのおさげがゆれて、まるで子猫の尻尾のようだ。天真爛漫で、とても愛らしい。

　この子にはみりあちゃんという双子の姉妹がいる。その子はちょっとおしゃまで、いつも自信ありげにしている。それがまた、背伸びをするような子供を見ているようで、魅力的である。

「最近は肌寒いわよね。暗くなるのも早くなってきているような気がするわ」

「せやねぇ。ま、もうそろそろ秋も終わりやしね。暑いお茶が売れそうやわぁ」

「うふふ、ならあったかいお饅頭も売れるわね！」

　いつも通りの談笑だ。私達はそれからしばらく話し合って、またわかれる。店に戻って、ふと売れ残りのお饅頭が目に付いた。弼君に渡しそびれたお饅頭。折角だし、半額で売りましょう。