第五話 ゼーゲン ページ6
「到着いたしました、ヴィントシュティレ卿」
運転手の声と共に、私を乗せたリムジンの扉がゆっくりと開いた。その扉の先で、レッドカーペットの両側に大勢の護衛や富裕層の方たちが少々大げさなくらいに賑やかな歓迎を行ってくれている。
「さぁ、行きましょうか。ウィル」
「はい、ゼーゲン様!!」
私は隣に座っていた黒髪の少年――あるいは、フォボス症候群や手術の副作用で少年のように見えているだけかもしれない私の補佐官、ウィル・ウィリスの手を取りリムジンから降りる。
今日は南区中心部からはかなり遠い町の遊園地に視察に来ている。本当は、このところ働きづめだったウィルをのんびりと遊ばせてやろうと、お忍びで人の少ない遊園地に連れて行こうと思っていたのだが、統治者という立場故に、また本人が私を置いて遠出するのを嫌がったのもあって、こうして「公務での視察」として足を運んだのだ。
「これはこれは、統治者様!このような辺鄙な地までご足労いただきありがとうございます!」
早速、この辺りの地区長が私に挨拶にやってきたようだ。
「あなた様の住まう場所に比べれば、きっと随分退屈な場所でしょうが、私共一同、精いっぱいおもてなし致しましょう」
「ありがとうございます。私の務めは南区の全ての人に夢と幸福を与えること。辺鄙な地などとご謙遜なさらないでください。私にとってはどんな場所であろうと愛すべき南区なのですから……ウィル、そちらの方は武器を奪って車に詰めておきなさい」
「わかりました!」
一瞬の騒めきは、すぐに悲鳴へと変わる。
私を黒山のように囲っていた人混みがさっと引き、ウィルと彼に取り押さえられた暗殺者だけが私の目の前に残っていた。
「ゼーゲン様、武器ってこれですか?」
「……かなり古風なカメラに擬態した……音響銃ですか。よく考えましたね」
自由を愛する南区では、こういった物騒なものも自由に持てる。めいめいに工夫を凝らした手法で暗殺に来るので案外楽しい。
古典的な方法なら逆に対策をしていないと踏んだのか、などと考えていると地区長が青ざめた顔で叫ぶのが聞こえた。
「ゼーゲン様!それにウィル様も、ご無事でしたか!?」
「ええ、私どもは無傷です」
「大変な不手際、申し訳ありません!なんと謝ればよいか……」
「謝罪は結構ですよ。その代わり、皆にこう伝えてください」
私は微笑んで言った。
「『簒奪を望むなら相応の力を持て』とね」
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ミクミキ(プロフ) - 終わりました! (2019年11月13日 20時) (レス) id: eada72cfbe (このIDを非表示/違反報告)
ミクミキ(プロフ) - 更新します! (2019年11月13日 19時) (レス) id: eada72cfbe (このIDを非表示/違反報告)
ミクミキ(プロフ) - 終わりました! (2019年11月12日 21時) (レス) id: eada72cfbe (このIDを非表示/違反報告)
ミクミキ(プロフ) - 更新します! (2019年11月12日 20時) (レス) id: eada72cfbe (このIDを非表示/違反報告)
キューブ(プロフ) - 更新しましたー (2019年11月9日 22時) (レス) id: ed034718e4 (このIDを非表示/違反報告)
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