フォビアコンプレックス (ページ38)

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第三十七話　レヴィアタンページ38

「またゼロ生物が発生したって？」

　まったく、うんざりするよ。ワタシは溜息交じりに呟いて、おやつのアルラウネを囓る。

　ゼロ生物で唯一養殖に成功したアルラウネは、東区では有名な珍味である。こりっとした触感と、ライチのような爽やかな甘みが特徴だ。個人的には塩をつけて食べるのがベストである。かつてはゼロ生物の中でもトップクラスの危険度を誇っていたが、いやはや、人間の食への執着とは恐ろしい。

　まあ、それはさておき。

　北区から運ばれてきたエキドナ種のゼロ生物は、ぴくぴくと痙攣しながら蠢いている。時折口と思わしき器官から、こぽこぽと血を噴き出していた。

「スティグマ・コトラ・ベルツ……もしかして、エキドナ種の始祖の息子の？」

　そりゃ好都合。ちょうど母親である始祖もいるのだし、いろんな実験ができそうだね。今度クロステストさせてみよう。

　さてと、この件はまた後にして、と。

　サキュバスの収容室に向かい、様子を見る。前回はインキュバスを導入していたけど、今回はなしだ。インキュバスが近くにいない場合、サキュバスは成分の放出を止めて、大人しくなる。

「……」

　まるで死んでいるようだ、というべきだろうか。ワインレッドの瞳は固く閉ざされている。

　死んでいるという比喩表現があながち間違っていないのも興味深いところだろう。どうやらサキュバスは、インキュバスが近くにいないとその生命活動を停止させるようなのだ。逆に、インキュバスはサキュバスが近くにいない場合には成分の放出が活性化するのだけど。

　いったいどのような因果関係があるのだろうか。

　ワタシはそれを眺めながら、口の中のアルラウネを噛んだ。甘い汁が出てきて、喉が潤った。