フォビアコンプレックス (ページ29)

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第二十八話　調ページ29

「ねぇ調っ！早く早く！」

「ちょ、待ってよ姉さん！」

　姉さんは飛行艇の窓から、はるか下を見下ろしている。腕には、飼っていたペットが好んでいたドッグフードが握られ、準備万端といった様子だ。

　人類が地底へ逃げ延びた後、僕達は地上に残った。汚染されていく地上を観察するためかもしれないし、それ以外の目的がもしかするとあったのかもしれなかったけど、ともかく、僕達は特殊飛行艇エルピスに乗り、暮らしてきた。

　今から僕達は地底へと向かうなぜかって？そりゃ、ペットが逃げ出したからさ。

　水生の犬のようなゼロ生物であるスキュラが、目を離した隙に水槽を抜け出して、地底へと入り込んでしまったのである。

　なぜそれを知ってるかって？地底に住んでいる友達がこの飛行艇に連絡をくれたからさ。

　よく分からない空間のゆがみが観測されたんだけど、そのどれもが地底へと繋がっている事が確認されたから、そこを通って地底へ行く事にしたのだ。

「それにしても、地上もやっぱりすごく変わっちゃったよね」

　ふと、感慨深げに姉さんが呟いた。僕も準備の手を止めて、窓から下を覗き込む。

　荒れ果てた大地が、そこにはあった。かつて文明があったとは信じられないような、そんなものだった。住宅街が建ち並んでいたところには、倒れた柱や壁がかすかに確認できるだけだった。

　唯一確認できたのは、遥か彼方に見える緑と赤。

　かつてWPS研究所だった建物と、それを鉢植えのようにして成長を続ける巨大な薔薇の花。

「おーい、調！もう準備できた？」

「あっ、忘れてた！待ってて姉さん、すぐ行くから！」