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「あ“あ“あ“あ“あ“あ“」
絶叫した。
メスが、私の左目に刺さる。いや、刺さってはないわ。それは錯覚だと、理解していた。それは私の眼窩に当てられ、そしてそこにハンマーが打ち付けられ、そして穴を無理矢理にこじ開けた。
激痛だった。今までに感じた事のないような。文字通りに、頭が割れるようだった。脳味噌を抉られるようだった。
本来なら、そこで気を失ったのではないかと思う。許容量を超える痛みを、脳味噌は認識できないというし。しかし、そうはならなかった。少しずつ少しずつ、私の眼窩はぐちゃぐちゃにされていって、そのたびに私は泣き叫んだ。
「ぴいいいいいい」
変な声が漏れる。違う。これは声じゃない。ただの鳴き声だ。意味なんてないんだから。まるで傷ついた獣のような、野性的な鳴き声。人間のものじゃない。けど、これは私の口から出てきた音だ。
私は何?獣?人間じゃない?
口から涎がどろどろとこぼれて、鼻からは変な汁が流れた。無事だった右目からは透明な水を、脳味噌をえぐるための器具を入れる左目からは真っ赤な涙を流して、私は狂ったみたいに泣き叫んだ。
こん、こん、こん。軽やかなリズムで、ハンマーは叩かれる。そのたびに、私の目の奥が、ごん、ごん、ごん、と、すさまじい痛みを伴ったひどい音を鳴らし、私の口からは、あ、だとか、え、だとか、そんな音が漏れた。
まるでハーモニー。ちょっとずれもない、美しい音色。けれど、まったくもって不快でしかない。
固いもの同士を打ち付け合う鈍い音。固いものが壊れる嫌な音。ひどく動物的で肉感的な、つまりは人間性や知性を欠片も感じられないような、音。
それらが揃って、一つの音楽を奏でた。きっと世界で一番醜いだろう、音楽を。
そんな地獄のような状況で、ふと痛みを感じなくなる。痛覚が脳の許容量を超えたのだ。私はいきなり痛みが途絶えた事へのショックか何かで、あっさりと意識を暗転させようとする。目の前が、赤に染まる。
その赤が、私が……スザンナ・ローズが見た、ものだった。
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レモネイド - これは名作の気配。続きを期待。 (2019年8月23日 16時) (レス) id: a343b5b023 (このIDを非表示/違反報告)
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