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目を覚めたそこは、薄暗い部屋。窓から差し込む光はほんのわずかなもので、それでもここの唯一の光源。その光と自身の感覚を頼りに、私は起き上がる。
床には様々なものが散乱していて、うっかりすると踏んでしまいそうだった。特に気を付けるべきものは、とがっているもの。くぎや鉛筆なんか踏んでしまったら、怪我してしまう。床が血で汚れてしまう。そうすると、怒られる。
ここにはたくさんの子供がいる。皆、親のいない子。親が死んでしまったり、捨てられてしまったりした子達ばかりだ。
……そして、私も。
けど、私は皆より恵まれていた。なぜなら、私には家族がいたからだ。たった一人の肉親。私の、可愛い可愛い妹。
「……フィー」
フィー、というのは、妹の愛称。彼女は自分の名前を気に入っていたから、愛称よりも本名で呼ばれた方が嬉しいみたいだけど。でも私はフィーの方が好きだった。言いやすいんだもの。
「フィー、起きてる?」
フィーの寝ているベッドに歩み寄って、話し掛けてみた。ベッドが近ければ良かったんだけど、生憎とかなり離れている。枕元に立って、フィーのほっぺを優しく撫でた。フィーは目覚めなかったけど、その穏やかな寝顔は私を癒してくれた。
しばらくそうしていると、窓からの光が強くなってきた。朝になったのだ。そろそろ、皆目が覚めるだろう。いつもより早起きした事を自慢してあげましょうか。
「……お、ねぇ……ちゃん?」
そんな事を考えていると、フィーが目を覚ましたの。長い睫毛に縁取られた大きなおめめを開けて、眠たげにあくびをしながら起き上がる。腰元まである長い黒髪が、その拍子にさらさらと揺れて。それはまるで夜の空をそのまま絹糸にしたような美しさ。思わず見とれてしまう。
私が微笑んでみせると、フィーは嬉しそうに顔をほころばせた。朝の霧のようなミルクの白い肌に、薔薇のような赤が混ざる。その姿は、おとぎ話の白雪姫のようであった。ううん、きっと白雪姫よりも美しいわ!
「おねえちゃん、おはよう!」
年の割にはややたどたどしい口調でフィーは言って、ベッドから下りる。足元のがらくたに気を付けながら。フィーの細い脚が床につく。
「顔を洗いましょ、フィー。そしたら朝ご飯。今日はベーコンエッグだったから」
「やった、ベーコンエッグ!だいすきなの!」
花のような笑顔。私は愛おしくなって、フィーを抱き締めた。
フィー、私の唯一の妹。お姉ちゃんが絶対に守ってあげるからね。
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レモネイド - これは名作の気配。続きを期待。 (2019年8月23日 16時) (レス) id: a343b5b023 (このIDを非表示/違反報告)
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