フォボス症候群４ (ページ6)

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第百三十四話　フィリアページ6

「う、えぇ……」

　身体中が痛くて痛くて仕方ない、みたいだわ。断定できない。あまりに痛くて、感覚がおかしくなってしまっているみたいなのよね。ぐらぐらと揺れて、もう吐き出すものなんて残ってもいないというのに、ひどい吐き気がするの。

　逆さ吊りにされているから、頭に血が上っていく。苦しい。気持ち悪い。けれど、痛いのよりはずっとましよね。

　しかし、怪物はアタシのその思考でも読み取ったのかしら？逆さ吊りにするのをやめて、今度はアタシの喉元を、その爪を突き立てながら掴みあげる。つまりは、首吊りの形で。

　つらくて、喉が壊れているのも関係なしに叫び声をあげたら、口の中から、何かが飛び出た。まだ残っていた胃の中身か、あるいは喉の皮膚が剥がれ落ちたものか。血が目に入っていて、よく見えなかったけれど。少なくとも、それは赤い色をしているであろう事は、容易に想像できた。

　それだけで終われるのなら、良かったというのに。怪物はその長くしなる尾をアタシの全身に叩きつける。腕、腰、脚、胸……びっしりと鱗の生えた尾による鞭打ちは、たった一撃だけで、アタシの肉をえぐり、骨を剥き出しにさせる。へたくそな人体模型みたいに、骨と筋肉と内臓が露出していくのが見えた。

　ひゅんと風を切る音がなるたびに、アタシの身体から血が飛び散った。それに比例するかのように、少しずつ、少しずつ、身体から熱が奪われていって、冷たくなっていくのも分かる。

　激痛と、それ以上に恐怖に絶叫しながらも、それをどこか冷静に眺めるアタシがいた事に、驚いた。

　ああ、なぜこうなっているのかしら？アタシの身体、なぜこんなにぼろぼろになっていくのかしら。分からない、分からない。

　ひゅー、ひゅー、と情けないような、隙間風のような音がした。それはアタシの口から聞こえてくる。意識がどんどんと、遠ざかる。しかし楽になるのを許さないと言わんばかりに怪物はアタシの口の中にその指を突っ込んで、掻き回す。新しい痛みに、意識はあっさりと覚醒してしまって。

　ああ、まだ、地獄は終わらないみたいだわ。そうぼやきたかった。けど、それもできやしない。仕方ないので、とりあえず怪物の手首にナイフを突き立てた。