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第百四十話 クランクハイト ページ12

カンパニーのビルの上にオレは立っていた。より正確に言えば、かつて世界に名だたる大企業の本社が存在していた場所、そこに広がる瓦礫の山の上に立っていた。早いものであれからもう数か月も経つ。それでも、病原菌や未知の化学物質による汚染を理由にこの一帯だけは一向に復興が進んでいない。


「何もかも、何もかもが変わっちまったな」


オレの虚栄と武力の根源たるカンパニーは社員も生物兵器も失った。見晴らしのいい執務室も、ゾクゾクするような実験機材たちも、等しく瓦礫と化している。

哀しいまでに晴れ渡った空の下、総帥殿は同じ空を見ているのかさえ分からない。


万一の場合に備えて用意しておいた逃亡経路はそのデータごと失われ、追う事はもはや不可能だ。
僅かに残った部下に捜索を命じてはいるが、総帥殿が自ら姿を現さない限り、もう総帥殿に合うことは出来ないだろう。
総帥殿とかつてのように、笑いながらチョコプリンを食べたり、オレの功績を褒めて頂いたり、世界を恐怖で支配するための策を練ることは出来ない。

本当に、そうだろうか?


「総帥殿……ようやく気づきましたよ、あなたが何故帰って来ないのか」


総帥殿がカンパニーを捨てた?

違う、総帥殿はオレに暗にこう命じているのだ。
「このような脆弱な組織では野望を叶えるに足らない。もっとましな組織を作り直せ」と!


そうだ、そうだ、きっとそうに違いない!
総帥殿自身が手を下さずとも、オレならそれを出来ると、総帥殿は期待してくださっているのだ!
オレがこの手でカンパニーを再建し……否、カンパニーを凌駕する程に邪悪で、悍ましい、恐怖そのものとでも言うべき組織を作り上げる!
世界に知らぬものなしと言われるまでの「恐怖」を!


そうすれば、きっと総帥殿は帰ってきてくださるのだから!


「クク……ッハハハ!ヒァッハハハハ!!!なんだ、簡単な事じゃないか!待っていてください、総帥殿!必ずや、貴方にご満足いただけるものをご用意いたしましょう!!」


オレの笑い声が、静かなカンパニー跡地に響き渡る。
それに呼応するように足元で何かが蠢いた。


「ブゥ……ン……」


「ん?なんだ、貴様も生きていたのか」


無事な生物兵器が残っていたとは想定外だった。だがこれは喜ばしい事態だ。


「貴様もオレについて来い!ハハッ、これから起こる惨劇を想像しただけで胸が高鳴る!」


足下の何かも、嬉しそうに動いている。
来るべき未来の夢を抱き、オレは新たな計画を考え始めるのだった。

第百四十一話 フィリア→←第百三十九話 カナデ



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白雪の鴉亭(プロフ) - 終わりました! (2019年4月29日 8時) (レス) id: 033af8111d (このIDを非表示/違反報告)
白雪の鴉亭(プロフ) - 手直しします! (2019年4月29日 8時) (レス) id: 033af8111d (このIDを非表示/違反報告)
白雪の鴉亭(プロフ) - 終わりました!これにて!フォボス症候群!完結です! (2019年4月29日 8時) (レス) id: 033af8111d (このIDを非表示/違反報告)
白雪の鴉亭(プロフ) - 更新します! (2019年4月29日 7時) (レス) id: 033af8111d (このIDを非表示/違反報告)
キューブ(プロフ) - 更新しました! (2019年4月28日 21時) (レス) id: ed034718e4 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ミクミキ x他1人 | 作者ホームページ:http  
作成日時:2019年4月26日 13時

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