フォボス症候群２ (ページ39)

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第八十四話　ミアページ39

天上から騒音が響いてくる。被検体の悲鳴にも、社員たちの怒号にも似つかない奇妙な叫び声と、瓦礫の旋律。一体、上で何が起こっているのだろうか。
何が起ころうと、私には関係の無い事。私は逃げることもできない。泣いても叫んでも、きっと上層階には届かない。

「……大丈夫よ、泣かないで」

轟音に驚き泣き始めてしまった子供たちを慰めたところで、今更何になるというのだろう？
薄暗い部屋の中、汚れ切った天井を見上げた。ぱらぱらと塵を落とし始めていた天上は、ついに崩れ始めた。空虚な音を立て、天井板が落ちてくる。瓦礫の群れは私に繋がれた機械を破壊していった。

「……私は、此処で死ぬのですね」

別段、悲しいとは思わなかった。
辛いとも思えなかった。

毀れかけた四肢を抱えたまま、ドロモスワークスカンパニーの醜悪な研究に使われながら生きていくくらいなら、死んだ方がマシだと思っていたからだろうか？

「……ごめんなさい、奏さん。貴方にあれほど元気を貰っていたのに、なんのお返しもできなくて……」

瓦礫が私の頬を掠めていった。壊れた機械からは、私を生かすための循環液が漏れ出ている。
本当に、これで全てが終わる。

そう思っていた。

瓦礫と共に、一人の少女が落ちてきた。
見覚えのある顔をしていた。

「はあっ、はぁッ……ミア！ミア！ここに居たんだね……！」

間違いない、この声は。

「……奏さん！どうして、此処に……！？」

「よかった、無事だったんだね！助けに来たよ、ミア！」

奏さんの笑顔が眩しい。まともな人間の笑顔を見たのは、いつぶりだろうか。
私は大粒の涙を流しながら、奏さんの体を抱きしめていた。