第六十話 アイン ページ15
「ぶんぶぶ〜ん♪」
まっ白いろうかを飛ぶのはとっても楽しい。
ぼくはびょう気にかかってにゅういんしてるけど、たてものの中ならおさんぽしてもいいんだって。だから、ぼくは時々、みんなのおへやにあそびに行く。
「今日はだれのとこに行こうかなぁ〜」
ぼくがふわふわ飛んでいると、角を曲がってだれかが来るのが見えた。『せんぞくい』のお兄さんと……ぎん色の人と赤い人。
「!」
赤い人を見たぼくは、ぼくの体がおちていくのに気づいた。ショックをうけると『かしじょうたい』になるって、お兄さんが言ってた。あの赤い人、なんだかこわい。こわいって思ったから、体がうごかないのかな。
「……こちらは、被験者として滞在して頂いている方々の病室となっています。……おっと」
お兄さんが、ぼくのことに気づいてくれた。
「アイン、大丈夫かい?」
お兄さんがかたをたたいているけど、体が動かない。お兄さんの後ろで、赤い人がつめたい目でぼくを見ていた。
「我々を見て驚いてしまったのかもしれませんね。彼も被験者なのですか?」
「ええ、はい。少々お待ちください、彼を病室に連れて行きますので」
「構いませんよ。発病した方の安全確保は何より優先すべきですから」
お兄さんはぼくのからだをもち上げた。赤い人の口もとがうごく。
「人から節足動物への変異、ですか。本当に、フォボス症候群に関しては研究を進めれば進める程に、謎が深まるばかりですね」
赤い人が、やわらかい声で言った。むかし、よく聞いた声だった。
クランくん、だよね。ぼく、アインだよ。
そう言いたかったけれど、やっぱりぼくの体はうごかない。あの赤いかみのけと、目が、こわいんだ。
「……そういえば、貴方はこの方を……アイン・タークスフリーゲさんをご存知ですか?」
「いえ、アインという方は知り合いにはいませんね。お役に立てず申し訳ありません」
「……そうですか。彼は消息不明の友人に会いたがっていまして……貴方と同じ名前だそうです。もしそれらしい方にお会いしたら、ぜひご一報下さい。シャーデンフロイデさん」
……やっぱり、赤い人はクランくんと苗字も名前もいっしょだ。でも、ぼくのこと知らないって。
もしかしたら、ぼくのこと忘れてるだけかも。声を聞いたら、思い出してくれるかも。話しかけたいのに、声がでない。
「それより、ここに泉水零弥という人はいませんか?」
「レイヤさん、ですね」
三人は、ぼくから遠ざかっていってしまった。
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白雪の鴉亭(プロフ) - 更新終わりました。短くてすみません。 (2019年4月4日 18時) (レス) id: 033af8111d (このIDを非表示/違反報告)
白雪の鴉亭(プロフ) - 昨晩は本当にすみませんでした。小説を更新します。 (2019年4月4日 17時) (レス) id: 033af8111d (このIDを非表示/違反報告)
嵩画@多忙(プロフ) - 終わりました。お話を追加しようと思ったのですが、文字数の関係上一話では収まりきらないと判断しましたので続編の方に書かせて頂きます。 (2019年4月4日 1時) (レス) id: 3b71435c15 (このIDを非表示/違反報告)
嵩画@多忙(プロフ) - 更新します (2019年4月4日 1時) (レス) id: 3b71435c15 (このIDを非表示/違反報告)
ミクミキ(プロフ) - 終わりました! (2019年4月3日 16時) (レス) id: eada72cfbe (このIDを非表示/違反報告)
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