フォボス症候群 (ページ2)

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第一話　フィリアページ2

「にしてモ、会長も妙ナ事を考えるワネ」

　研究所の長い廊下を歩きながら、そうぼやく。他の研究員が聞いたらたしなめそうな発言だけれど、幸い、アタシの発言を聞き取れた人はいないみたいだった。

　ドロモスワークスカンパニーについて、会長が良く思わないであろう事は知っていた。けれど、だからといって、単体で潜入調査するほどまでとは、思ってもみなかったわ。

　あの時は見物だったわぁ。会長が怒られたんですもの。皆、会長の事を心配していたものね。アタシは別にそうでもなかったけど。会長も反省していたわ。

　かつん、かつん、かつん。

　歩くたびに、ヒールの音が廊下に響き渡る。それがかえって、あたりの静けさを引き立てていて、アタシの不安を増長させる。緊急会議とは聞いているけど。どうせ、発覚したカンパニーの不正行為への対応についての会議なんでしょ？足を止めて、考える。

　生体兵器くらい、見逃してあげても良かったのでなくって？

　脳裏に浮かぶのは、カンパニーで働く友人のスージーと、その妹の姿。

　もしカンパニーが潰れたら、彼女達はどうなってしまうのかしら。……ううん。こんな事、考えるだけ無駄よ。アタシはただの研究員。発言権なんてないに等しい。それに、会長の事だから、もしそうなったとしても、彼女達に仕事を紹介するくらいはやりそうだわ。

「会長、お人好しだものネェ」

　口に出してみると、その思いはどんどん確かなものになっていくようだった。そうよ。きっと彼女達は大丈夫。つらい目になんて、合うわけがないわ。

　穏便に事は運ばれるはずよ。会長のとった調査法は少し……いえ、かなり強引なものではあったけれども。

　しばらく考えて、ようやく落ち着いた。アタシはすっかり安心しきって、さっきまで不安になっていたのが、馬鹿らしく思えてきた。

　久しぶりに、電話でもかけてみようかしら。そう思ったけれど、そういえば、今はまだ正午を過ぎたばかり。彼女はまだ働いているでしょう。なら、メールでも送っておきましょうか？

　少し考えて、アタシは携帯電話を取り出した。内容を考えつく前に、腕が動く。

『件名：元気？』
『本文：あなたって、転職する気はある？
　もうしばらくしたら、少し面倒な事になるみたいなの。
　でも大丈夫よ、何とかなるわ！
　それから、フィーちゃんは元気？』

　送信ボタンを押して、アタシは会議室に急いだ。