Lillipop Lips/knsm ページ39
「ごめん先輩、寝坊した！すぐ準備して来るから、座って待ってて！」パジャマ姿のAがそう言って自分の部屋に引っ込んでから、優に三十分が経過していた。
彼女の自宅のリビングにある大きなソファに身体を沈めたまま、完璧主義の白い壁掛け時計を見上げる。あの秒針が次に十二を指したら、彼女の部屋に突撃する事を決めていた。九、十、十一。十二。飼い主によしと言われた犬のようにソファから飛び上がり、足音を立てて長い階段を駆け上がる。客観的に見て豪邸と言えるこの広い家には彼女と自分しかいないので、特に家人に気を使う必要は無い。
あまり深く聞いた事は無いが、どうもAの親はどちらも仕事で飛び回っていて殆どここに帰って来ないらしい。一人娘が生活する為の金を置きに、月一程度で顔を覗かせるだけだと。「信頼という名の責任放棄だよ」とどうでも良さそうに呟く彼女に親近感を覚えた事は、嘘ではなかった。
家に来たのはこれで数回目だが、Aの部屋に入った事は一度も無い。それでも扉に掛けられた可愛らしいネームプレートのお陰で、場所はすぐに分かった。
ノックもせずにドアノブを回して扉を開けると、様々なものが乱雑に散らばった室内が目に飛び込んで来る。ぬいぐるみ、洋服、その他細々とした雑貨類。そのどれもが柔らかいパステルカラーでまとめられていて、散らかっているにも関わらず部屋に或る種の統一感を生み出していた。女子高校生の自室が一般的にどんなものかは知らないが、多分ここまで沢山の物は無いのではないだろうか。本来ならば家族が集うべきリビングの空虚さを埋めるように、ここにはあらゆる物が詰め込まれている。こちらに気が付いて不満そうな表情を浮かべるこいつは、本当は寂しがり屋なのかも知れない。
「ちょっと先輩、準備中の女の子の部屋に入って来ないでよ！デリカシーとか無いの？」
「お前が遅いからやろ。はよせんと店混むで」
「これ乾かないと何も出来ないんだよ。もうちょい待っててー」
そう言ってぱたぱたと手を振るAの指先には、今日の空と同じ色が塗られていた。急いでいる時の準備にマニキュアは必要なのか、と口に出すとまた生意気にも言い返してくるので黙って部屋に足を踏み入れる。ふわりと浮かんだ甘い香りの正体が何なのか、周りを見回してみても突き止められなかった。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 181人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
万代(プロフ) - ありさんさん» 初めまして、コメント有難う御座います。そのような温かいお言葉を頂けて大変嬉しく思います…！まだまだ至らぬ点などありますが、少しでも楽しんで頂ければ幸いです。これからもご期待に添えるよう精進して参りますので、何卒宜しくお願い致します！ (2020年4月16日 8時) (
レス) id: 41e9c26b05 (このIDを非表示/違反報告)
ありさん - 夜分遅くにごめんなさい。一文一文が丁寧で、読んでいてホッコリした気持ちになれました！素敵なお話が沢山詰まっていて、綺麗に読み終われます。コメント返信も丁寧で、見習おうと思いました……！更新応援させていただきます！長文失礼しました。 (2020年4月16日 1時) (レス) id: 1680e79eb8 (このIDを非表示/違反報告)
万代(プロフ) - ぴゅあらるぐみさん» 初めまして、コメント有難う御座います。お褒めのお言葉の数々、大変嬉しく拝見させて頂きました…！楽しんで頂けたようで、作者として非常に光栄です。不定期ではありますがこれからも少しずつ書いていきたいと思いますので、何卒宜しくお願い致します…！ (2020年3月26日 13時) (レス) id: 41e9c26b05 (このIDを非表示/違反報告)
ぴゅあらるぐみ(プロフ) - 万代さんはじめまして！とっても素敵でリズムのいい文章が心地良くて、にこにこしながら読ませていただきました… 人物一人ひとりが愛らしくてあたたかい気持ちになりました！ご自分のペースで頑張ってください〜！更新応援しております。長々と失礼いたしました！ (2020年3月26日 12時) (レス) id: 2ed32571d6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
