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「はい、光輝さま。お座りください。」
『はーい』
少し機嫌が良くなった坊ちゃんを椅子に座らせ、ドライヤーで髪を乾かす。
ドライヤーで乾かしている最中、何か話すわけではないが、坊ちゃんは嬉しそうにしていたから、それで良かったらしい。
「光輝さま、終わりましたよ。」
『うん、ありがとうA』
「ふふっ、」
「いえいえ。」
私がこうやって節目がちに笑うと、坊ちゃんはいつも不思議そうな顔をして覗いてくる。
今日はぐいっと顔を近づけて覗いてきた。
「こ、光輝さま、お顔が少し、お近いかと、、」
『Aってなんでそんなにまつ毛長いの？綺麗にくるんって上がってるし。常に目がキラキラってしてるし。』
『綺麗な目してるよね。Aって。』
「光輝さま、あの、そろそろお顔の方を、、」
『ん、？あ、あぁ、ごめん。』
「い、いえ、。構いませんよ。ﾆｺｯ」
女であることがバレてしまうことに、そう時間はかからないと思っていたが、ここまでにも早いものなのか。
私は少し焦った。
「光輝さま。お夕食の準備ができております。」
『あぁ、うん。わかった。』
「ダイニングでお待ちしております。」
『あっ、待って、！』
一礼して部屋を後にしようとした時、腕を掴まれた。
「光輝さま？」
『あのさ、、今日はAも一緒に食べようよ、。』
「え、？」
私も、坊ちゃんと楽しく団欒を囲みたい。
でも、私は坊ちゃんに仕える執事である。
たとえ、坊ちゃんには私しかいないとしても、私はいつでも坊ちゃんの後ろを歩かなければならない。
隣に並ぶ、なんてことがあってはならないのだ。
「光輝さま。流石の一ノ瀬も、光輝さまのお隣にお座りになって食事することは致せません。」
「申し訳ございません。」
『だ、よね。ううん、大丈夫。俺が我儘すぎた。』
『行こう。お腹空いたし！』
「…承知致しました。」
私の選択肢には、YesかNoしかない。
坊ちゃんが不安がるような曖昧な選択肢はない。
常に、ハッキリとした受け答えをしなければならない。
でも、私が坊ちゃんにハッキリとした受け答えをしたことは、果たしてあるのか、？
食事中の坊ちゃんは、いつものようなふてぶてしい顔ではなく、何処か悲しみを憂いたような顔をしていた。
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作者名：青た | 作成日時：2020年5月21日 3時
