35話 ページ36
.
A｢...そういえばこんなにゆっくり話せるのは久しぶりですね。｣
伊東さんは僕と共に家電屋へと足を進めながら口を開いた。
五十嵐｢それもそうですね...最後に話したのは僕が日本へ戻る時ですから...かなり前になりますね。｣
僕はゆっくりと歩きながら応える。
僕と伊東さんはワシントン首都大での講義の後、ピレス教授の元で1年間だけ共に医師として働いていた。
当時、彼女はまだ研修を終えたばかりの18歳。
秀才、と謳われていた彼女はピレス教授に才能を見出され、彼の元で働くことになったのだ。
A｢.....｣
すると伊東さんはおもむろにスマートフォンを取り出し、検索エンジンを操作し始めた。
"Tragic genius Ms.Ito(悲劇の秀才 伊東)"
彼女はその見出しの記事をタップする。
五十嵐｢...！｣
少し横から覗いていた僕はそれに気が付き伊東さんへ視線を向けた。
彼女は何の感情を示すこともせず、呟く。
A｢...悲劇の秀才......同情で付けられた名前なんて嬉しくありませんね。｣
伊東さんはフッと笑った後、僕に向き合って続ける。
A｢結論から言いますね。.....これに書いてあることは真実です。｣
五十嵐｢...！！｣
僕は脳内からあの記事に書かれていた言葉を拾い出す。
"She became the doctor because her family was killed by a doctor.(彼女は医者に家族を殺されたので医者になりました)
The cause was the misdiagnosis of a radiologists.(その原因は、放射線科医の誤診でした)"
五十嵐｢...誤診をされたのは.....｣
A｢母です。...でも、父も死にました。｣
五十嵐｢え...｣
僕が驚きの声を漏らすと彼女は笑みを見せる。
笑っているはずなのに、どうして貴女はそんなに苦しそうなんですか？
A｢母が亡くなった日、その日は私の誕生日でした。放心状態だった父は私を乗せた車で交通事故を起こしてしまいました。
...幸い後部座席に座っていた私は軽傷で済みましたが、正面衝突だったため父は圧迫死で亡くなりました。｣
五十嵐｢.....｣
A｢...両親と過ごすことが出来たのは7歳の誕生日を迎えた日まででした。｣
すると彼女は足を止め、笑いも泣きもせず呟いた。
A｢プレゼントをもらうはずの誕生日に、最愛の家族を2人も失いました。｣
僕は彼女にかける言葉が見つからなかった。
今の彼女を、僕はどう支えれば良いのだろう。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 721人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
奏奏奏(プロフ) - 愁さん» ご指摘ありがとうございます*_ _)訂正致しました！ (2019年6月28日 19時) (
レス) id: 681665cbc9 (このIDを非表示/違反報告)
愁 - はじめまして(*^^*) いきなりすみません...。 物語読んでいて気が付いたのですが...。 設定のここの部分 すると講義で五十嵐が日本で技師として働くということを耳にし、アメリカで修行を詰んだ後に帰国。 これ正しくはアメリカで修行を積んだではないんでしょうか？ (2019年6月28日 18時) (レス) id: fa78cdaff1 (このIDを非表示/違反報告)
奏奏奏(プロフ) - SUBARUさん» ありがとうございます！これからお話を進めながら主人公の過去編なども交えていけたらいいなと思っています。五十嵐さんの天然な所を描くのが難しくて苦戦していたのでとても嬉しいです！ (2019年6月10日 20時) (レス) id: 3daaf042e6 (このIDを非表示/違反報告)
SUBARU - 主人公のご両親の亡くなり方がとても切ないですね‥‥。後、五十嵐さんの天然さがちょいちょい表れるところが、やっぱり大好きです！ (2019年6月10日 1時) (レス) id: 9ff0393da1 (このIDを非表示/違反報告)
奏奏奏(プロフ) - SUBARUさん» ありがとうございます！ゆっくり仲を深められたらなぁと思っています。今後ともよろしくお願いします´`* (2019年6月7日 20時) (レス) id: 3daaf042e6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：奏奏奏 | 作成日時：2019年5月28日 20時
