一目惚れのこと ページ3
時は流れ、あっという間に次の朝はやって来た。
｢朝…。｣
元々の職業柄早起きは決して苦手ではないが、今日という朝は随分憂鬱である。
昨日突然決定した就職先。
採用不採用の面接を受けに行ったはずが、何故か言われたのは
《明日から早速よろしく頼むよ》。
この言葉の衝撃がまだ、私の頭を強く殴り続けていた。
｢…行かなきゃダメ…だよなぁ…。｣
鬱々としながら朝支度を進め、もう何回目か分からないため息と共に家の戸に鍵をかける。
電車で一駅、駅から15分でMHKには着けるので、少し早めに家を出て駅の中の喫茶店で朝食を取った。
小倉トーストとホットミルクで胃を満たすと、少しだけ嫌なことも忘れられるのだ。
帰りにも寄って帰ろう。そう心に誓って、再びため息を吐きつつ店を出た。
地図を見ようとスマホの電源ボタンを押す。
｢…あれ？｣
…様子がおかしい。
電源ボタンは確かに押せている。しかし、画面はひたすら真っ黒で、私の呆けた顔を映し出しているのである。
｢マジか…。｣
いや、最早間違いない。これは…。
｢電池切れ…。｣
まずい。非常にまずい。何を隠そう私は、かなりの方向音痴なのだ。
とは言え地図さえあれば目的地には到着できるのだが、それは文明の利器が無効化された状態では何の意味もなさない能力である。
初日から遅刻は非常に良くない。近くに交番は見当たらない。
ややパニック気味にオロオロする私は、明らかにやや変質者だ。
そう思うと、もうなんかとても嫌な気分になってくる。
面接翌日に右も左も大して分からぬまま職場が決定し、挙句迷子になってパニック状態(後者は私にも非があることは認めるが…)。
なんだって私はこうも運のない人間なのか。
と、その時であった。
｢あの、すんません。｣
後ろから声をかけられて振り返る。
立っていたのは男性二人。一人は金髪に黒メッシュの男性。もう一人は…
｢あ、もしかして媚野Aさんじゃないスか？俺、兎原跳吉っス！ウサオの中身の！｣
｢ああ…はい。｣
｢やっぱし！新しい体操のお姉さんっすよね？あ、よかったら一緒に行きません？｣
｢…。｣
私は無意識のうちに、返事すら忘れ呆然としていた。
そこに立っていた男性二人。一人は金髪に黒メッシュの男性。そしてもう一人は…
黒髪太眉の………超絶イケメン。
やけに輝いて見えるその人に、私はどうやら心を奪われてしまったらしい。
続く
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作者名：MeRe | 作成日時：2021年10月14日 11時
