73勝 ページ33
.
その日は本当に何も無い日だった。強いて言うなら、授業後に練習試合で青峰、緑間、黄瀬、さつきがいないということだけだった。
しかしそれは偶然廊下で青峰と鉢合わせたことによって崩される。
「ルナさん、ちわーす」
広い校内ではなかなか会うことが少ない先輩に会えたからか、笑顔で挨拶をしてくる青峰。
しかしルナは笑えなかった。否、それどころかいつも心がけていていつしかポーカーフェイスが常になってしまった無表情がなければ、盛大に顔を顰めていただろう。
今までは精々普通の天才程度だった青峰のオーラは、格段に膨れ上がっており、明らかに天賦の才が開花したことを物語っていた。
『...何かあった？』
「へ？」
『何かいつもと違うことがあった？』
「え、いや特にないスけど」
『...そう』
ルナの知る限り天賦の才はその人自身に何か特別な事があったり、その人を取り巻く環境が変わった事で開花したりする。実際ルナ自身もそうであり、青峰に何か特別な事があったのではないかと思ったのだが、違ったようだ。
「ルナさんこそ何かあったんスか？」
『いや...もうチャイムなるから戻ろうか。授業に遅れる』
「ういっす」
『(きっとこれからダイは負け知らずになる。
今まで以上にトリッキーなプレーができて、ダイを止められるのは才能を開花させた
それと当時に段々と弱者の、敗者の気持ちがわからなくなってくる。自らの才能に呑まれ、傲り、いつしか分かり合える人がいなくなってしまう。
ダイの才能ではなく、ダイ自身を見続けてくれる人がいなければ、いつか壊れるだろうな。)』
ルナ自身、幼い頃に開花させた才能に苦労してきた。元々注目を浴びていたその容姿と、なんでもできてしまう器用さがあった。それに加えて、スポーツ＿主にバスケとバレーではあるが＿でプロにも勝る実力を付けたのだ。
それでもルナが驕らず、壊れることなく育ってきたのは、愛情たっぷりの両親といつでもルナ自身を見てくれる幼馴染たち、いくら開花した天賦の才があったとしても、
才能が開花してから1on1で勝てなくなった父に連れてかれたのは、元日本代表の選手で高校時代の親友だという人の家だった。当時10歳だったルナが元日本代表の大人に勝てるはずもなかったが、それでも、全てに必ず勝つ人なんていないと再認知する事ができた。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 157人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：蒼月 | 作成日時：2021年6月9日 6時
