月の女神は勝利を誓う

27勝 ページ27

「寂しかった…」

ルナの作ったパウンドケーキを刺したフォークを片手にそっぽを向いて拗ねた様子のリエーフ。ルナは、アンティーク調のカップに虹村から貰った紅茶入れて上品に飲んでいる。

『うん、ごめんね』
「何やってたか知らないけどさ、折角来たんだからちょっとぐらい休んだっていいじゃん…」

『待たせたことは悪いと思ってる。でも、私は”ちゃんと”やるの。毎日コツコツ積み重ねて、過程も結果も埋めていくの。結果だけ出して中身が空っぽだなんてつまらないじゃない』

持っていたカップを置いたルナは、真っ直ぐにリエーフを見つめた。怒っている訳ではないのはわかる。だが、真剣な顔をしているルナの翡翠色の瞳を見たリエーフは、どこまでも澄んでいてまるで不純物が1つもない海に沈みこんでいくような感覚に陥る。



勉強、部活、委員会や係の仕事、掃除、洗濯、料理、ランニング、バレー、バスケ、護身術、楽器、全部”ちゃんと”やるの。例え、誰かがやってくれるようなものでも、毎日自分で決めたことをやるのは”心地いいから”。

『自分で決めたことをちゃんとやって、過程を埋めていく。そうしたら自然と結果も着いてくるの。過程と結果で今の私が創られている』
「う”ぅ”〜 よくわからん…」

パウンドケーキを持ったまま机に突っ伏したリエーフを見て、ルナは微笑んだ。



ルナの祖母、兵庫県にいる颯の両親の隣に祖母と2人で住む1歳上の彼＿北信介とはまた違った自分を創り上げていくルナ。

信介は機械のように淡々と自分がやるべきことを只管やり続ける。そして、当たり前のように結果を出す。ルナは、やるべきことは当たり前のようにやり、更に面白そうなこと、楽しいこと、それら全てを完璧にやり遂げる。

自分を構築するのは毎日の行動であり結果を副産物だと言う信介。勝負の世界に身を置いている以上、過程と結果の両方で今の自分が創られているというルナ。

凡人と天才。機械と天賦の才。似ても似つかない彼らに共通しているのは、決めたことは最後まで”ちゃんと”やる、ということ。なぜなら、それが心地いいものだと知っているから。


『(またシンスケに会いたいなぁ)』

どれだけ結果が出なくても、決して諦めずに”ちゃんと”やり続ける信介がルナは好きだった。結果を出せばいいと言う意見が強いこの世の中、世代の中で、過程を重視している信介といるのは、虹村や晶達といるのとは別で心地いいのだ。


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