月の女神は勝利を誓う

26勝 ページ26

アンナとルナが作った夕食をたらふく食べ、風呂にも入ったリエーフは、ルナの部屋にいた。

「ねールナ〜」
『もう少し待ってて』

ルナに渡されたジュースを片手に、ベッドに座ってその長い足をブラブラさせているリエーフ。久しぶりに会えたというのに、肝心のルナは、机に向かっている。

明日も部活があるルナは＿カメラアイ(瞬間記憶能力)によって忘れる事などないが＿その日の部員たちのデータを部誌に書くのを習慣としていた。

「さっきからずっとそれじゃん」

リエーフはコップをサイドテーブルに置くと、唇を尖らせてﾊﾟﾀﾝとベッドに倒れ込む。ルナが忙しいのもわかっているし、出来れば邪魔したくないとも思ってはいるが、折角会いに来れたというのにもう彼此1時間は待たされている。明日になれば高校生のリエーフの姉＿灰羽アリサが来る。

だからこそリエーフは、アリサが来ないうちにルナと沢山話したかったのだ。


☆


ルナがようやく部誌を書き終え、顔を上げた時、ｽｰｽｰと静かに聞こえるリエーフの寝息。明日は土曜日で学校が休みだから泊まっていくと言っていたので無理に起こして帰らせる必要はないが、どうしても待たせてしまった罪悪感はある。

『待たせてごめんね』

ベッドの縁に腰掛けて、穏やかに眠る従兄弟のサラサラの灰色に近い銀髪を撫でるルナ。

アンナの妹＿アンジュと、日本人の父＿綾斗の息子のリエーフも、ルナと同じでロシア人の血が色濃く現れている。ルナの髪は生粋の銀色ではあるが、翡翠色の瞳といい、傍から見れば姉弟と間違えても仕方がない程よく似ている。

「んん〜ルナァ…俺にもそれちょーだいよ…アリサとルナだけでお稲荷さん食べるなんて… ﾑﾆｬﾑﾆｬ...」

きっと好物のいなり寿司をアリサとルナに食べられている夢でも見ているのだろう。

『У тебя есть довольно милый сон(随分かわいい夢を見ているのね)』

寝言にｸｽﾘと笑ったルナは、リエーフの耳元にロシア語で呟き、おデコにﾁｭｯと口付けを落とす。


ルナは、日本生まれの日本育ちである。だが長期休暇になると、颯が金にものを言わせて買った別荘に訪れたり、様々な国へ旅行に行ったりするのだ。

アンナと颯に連れられてロシアは勿論、アメリカ、フランスなどの国に行ったことのあるルナは頭の良さも相まって、英語、ロシア語、フランス語、中国語、韓国語などの数多くの国の言葉を習得していた。

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