白銀の夜に【冨岡義勇】 (ページ9)

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９話ページ9

鬼にまたがり未だ斧を振りかざす私の腕を掴み、その行為を止められた。顔を上げると、１ヶ月の間会えなかった冨岡さんの姿。

冨岡さんに引っ張られ鬼から離れると、冨岡さんは刀を抜くと、鬼の首を斬った。
不思議なことに、私がいくら切り刻んでも死ななかった鬼が、瞬く間に消えた。
存在すらなかったもののようにされ、消えていった事実に驚いたが、鬼はいなくなったのだと安堵した。
その安堵も束の間。
鬼を切り刻んでいた時の感触、血飛沫、苦しむような唸り声。ツノが生えていても、あれは人間を殺したかのような感覚だった。
私は鬼ではなく、人間を殺したのではないか？と思い込んでしまうほど。
消えていったことから人間ではないことは確かなのだが、人間の思い込みとは怖いもので、そうなのではないかと思ったら、そうだと決め付けてしまうのだ。
はあ、はあ…と息を切らし、冷や汗をかいて自分の手を見つめた。
確かにこの手で、私は殺した。

「…立て」

情けないことに冨岡さんに立たせてもらわなければ立てなかった。

「私は、人を殺めてしまったのではないでしょうか」
「いや、あれは鬼だ」

「本当に？あれは、鬼だと思い込んでいるだけで、人だったんじゃ…」
「鬼だ」

きっぱりと言い切られてしまった。しかし、それが逆に安心する。
はあ、とため息をついて立ち上がり、冨岡さんに深々と礼をした。

「二度も助けていただきありがとうございます」
「三度目はないようにしろ」

「はい」
「…行くぞ」

＊＊＊

冨岡さんの隣を歩き、帰路へとついた。行くぞとは、送ってくれるという意味合いだったようだ。
かれこれ五分は一緒に歩いていると思うが、冨岡さんは一向に喋ろうとしない。
一応こちらから話しかけはしたが、全てああ、とかそうだ、とか一言で済まされてしまうのだ。
沈黙が続き、なんとなく気まずい。
何か話題を、と考えると、案外すぐ聞きたいことが見つかった。

「あの、しばらくお会いできませんでしたが、何かあったのですか？」
「…用がなかっただけだ」

あ、そうですか。確かに用がないなら会う必要ないですね。

「そうですか…」
「でも、これからは定期的に来るようにする」

「え？」
「どうやらお前は"稀血"らしい」

鬼が言っていたが、"稀血"とはなんなのだろうか。

「あの、"稀血"ってなんですか？」
「希少な血のことだ」

いや、あの、名前からしてなんとなく察してます。そうじゃなくて、稀血がどうとか、何があるとか…。