7話 ページ7
後ろを振り返ると、辺りは静まり返っていて、人の気配はない。
なんだ、やっぱり私の思い込みだと、再度安心した。
はあ、とため息をつき、早く××さんにこれを渡して帰ろうと、踵を返そうとしたとき。
後ろから口元を抑えられ、体も押さえつけられたが故に身動きが取れない。
それでもんー!んー!と声を出し、何とか抜け出そうと暴れるも、1ミリも抜け出せそうな気配はない。
「は、はは…は…稀血だ…!これで俺は…!」
ドンっと背中を壁に押し付けられ、相手の姿を確認すると、人物は違えど、1ヶ月前に見た化物と同じ特徴を持っていた。
鋭い歯に、人にはないはずのツノ。視界には映らないが、爪もきっと鋭いのだろう。
1ヶ月も経ち、空想上の生き物だったと、私の勘違いだったと思い始めた直後の出来事だった。
目の前に映るのは、冨岡さんの言う鬼。確かに存在している。
もう勘違いとは言えない。
鬼は、余裕のなさそうに息を荒くし、瞳孔をまん丸に開いて私を見ている。
さっきからまれちがどうのって騒いでる。
鬼は今興奮状態で、落ち着いていない。きっと冷静な判断にかけているはず。
興奮してる時ほど焦り、ミスをするって昔剣道の先生に習った。
とにかく鬼の手から抜け出さなければ。
そう思って、鬼というより男の弱点を狙って、股間を蹴り上げた。
鬼は小さな悲鳴を上げると、私を押さえつける手を離した。
その隙を見て、夜の町を駆け出した。
早く逃げなければ殺される。本能的にそう感じとっていた。
でも家に帰れば家族を巻き込むことになってしまう。
できればあの鬼から離れたところで身を隠そう、と考えていた。
しばらく走っていると目の前に山が見えた。しまった、何も考えずに走ってきてしまった。
山に入るのは鬼じゃなくても、不審者相手にはご法度だ。人がいないので、襲うとか色んな意味では最適な場所のはずだ。
はあ、はあ…と息を切らし、興奮状態で、鬼が来ているか分からない。
けど、きっと来るだろう。こんな夜に一人で出歩く女、襲うには好都合だろうから。
やはりここは身を隠してやり過ごそう。鬼が来て見つからなければいいし、来てなければそれはそれでいいんだから。
近くの物置小屋に侵入し、身を隠す。悪いことだとわかっているけど、命には変えられない。
ただ静かにその場に蹲っている。今聞こえるのはバクバクとうるさい心臓と虫の鳴き声だけ。
どうか…どうかこのまま、何事も起きませんように。
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作者名:棺桶には単位をいれてくれないか | 作成日時:2019年10月29日 1時