2話 ページ2
明人さんの隣に並ぶのは、初めて見る男性。
長い髪を後ろで一つにまとめ、見慣れない羽織りに最近普及され始めた型の服装。
身体を起こそうとすると、全身に激痛が走る。
それを見た明人さんが身体を支えて起こそうとしてくれたが、男性がそれを阻止した。
「無理はするな、そのままでいい」
「すみません…」
男性の言葉に甘えて、身体を寝たまま、彼とお話しすることにした。
彼は冨岡義勇さんと言っていた。彼を含め、昨日あったことを話した。
「化物に襲われたと言うのかい?」
「はい、人間とは思えない化物に襲われたのです」
昨日見た鬼の特徴をそのまま伝えた。
鋭い爪、牙、頭から生えた薄気味悪い色をしたツノば生えていたこと、常人とは思えないほどの力で飛ばされたこと。
全て嘘偽りなく話した。
「それは鬼だ」
鬼、そう言われて私は納得した。確かに昔聞いた話と特徴が一致している。
しかし明人さんは実際に見ていたわけではないから信じられないようだ。
昨日までの私のように、空想上の生き物だと思っている。
しかしこれは紛れもない事実だ。
「鬼なんているわけないだろう?」
「いえ、本当なんです」
「はは、きっと恐怖でそう思ってしまったんだね。大丈夫だよ、僕がいるから」
「そんな、本当のことで…」
「A」
私を呼ぶ明人さんの目が怖い。またやってしまった。
「すみません…私の記憶違いかもしれません」
「いや…」
明人さんにとって気に入らないことがあると、冷めたような目で私を見つめてくる。
笹原家に嫁ぐ者に相応しくない言動や、主人となる自分に反抗する態度を見せると、その目をしてくる。
男尊女卑の思考が人一倍強い家庭で育ったからだろう。彼もまた亭主関白気味なのである。
こうなれば私の発言はほとんど許されない。許されているのは明人さんの機嫌取りだけだ。
その日は結局、それ以上冨岡さんと話すことはなかった。冨岡さんは鬼を見たと言う証言を信じてくれたが、明人さんは頑なに否定した。
それでも冨岡さんは鬼はいるという言い合いになり、機嫌を損ねた明人さんによりお開きとなったのだ。
冨岡さんを見送り、戻ってきた明人さんが、隣に腰掛ける。
はあ、とため息をついた後、明人さんは私の頭をそっと撫でた。
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作者名:棺桶には単位をいれてくれないか | 作成日時:2019年10月29日 1時