１話 ページ1
痛みで朦朧とする意識の中、雪が積もる木々を見ていた。
はあ、と息を吐けば、吐息が白く染まり、呼吸をするだけで身体のあちこちが軋むように痛い。
私はこのまま死んでしまうのかと、薄れゆく意識の中でぼんやりと考えた。
3ヶ月後には祝言を控えているのに。晴れ姿をお父様とお母様に見せてあげたかった。
何よりも愛しい明人さんの隣にいることは叶わない。
涙で表す罪悪感と悔しさを胸に抱えながら、私は死を覚悟した。
少し離れたところから、ザク…ザク…と土を踏む音がこちらへと近づいてくる。
頭の向きを音の聞こえる方へ向けると、ニタニタと気持ちの悪い笑みを浮かべながら、化物が近づいてきているのだ。
私はこの鬼に喰われるのだと、瞬時に悟っていた。
逃げようと思った時には、私は投げ飛ばされ、地面に転がっていた。
痛みで動けない私はこのままこの化物に喰われてしまうのだ。
「は、はは…、久しぶりのご馳走だ…」
化物が目の前に。
お父様、お母様、明人さん、ごめんなさい。
目元に溜まった涙を溢すように目を閉じ、この後起こることを覚悟して、私は意識を手放した。
せめて知らない間に死ねるように。
＊ ＊ ＊
「ああ、起きたんだね」
目を覚ますと見慣れた天井に、明人さんの姿が視界に入った。
周りを見渡せば自分の部屋にいるということがわかった。
私は死んでいない？生きている？
確かめようと腕を動かそうとすると、ひどく痛む。
よかった、本当に生きてる。
「君が倒れたと聞いた時は心配したよ」
落ち着く香りに、優しい声に安堵し、身体中の力が一気に抜けていくのがわかる。
あの時の化物もいない。明人さんがいるから大丈夫。
「昨夜君を助けてくれた人がいるんだ。呼んでくるから少し待っていてくれ」
そう言って明人さんは部屋を去っていった。
ふう、と一息つくと、昨日起きたことを思い出す。
確かに私は昨日、死にそうになっていた。投げ飛ばされた衝撃で感じた痛み、薄れゆく意識、ニタニタと笑う化物。
体は痛むし、間違いなく昨夜は本当のことなのに。私はなぜ生きているのだろうか。
わからない。化物が目の前に来た後の記憶がないのだ。
思い出したくても思い出せないもどかしさを耐え、必死に考えていると、廊下に響く足音が耳に入ってきた。
「お待たせ。この人が君を助けてくれた人だよ」
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作者名：棺桶には単位をいれてくれないか | 作成日時：2019年10月29日 1時
