41話 大切なものほど ページ41
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「ねえA、あんた調子悪そうだよ今日。 孤爪と何かあったの?」
「なんで研磨なの」
「だって、今日あんた一度もあいつに絡んでないじゃん……突然変異すぎてびっくりするわ」
週明けの学校、結局Aは研磨に話しかけることが出来ずに一日中机に突っ伏していた。
流石にそれを心配したのか、彼女の友人は見舞いにゼリー飲料を差し入れる。
(これ、研磨がよく飲んでるやつだー……)
見覚えのあるパッケージ、そこからですらあのプリン色の猫を連想してしまう。
朝スッキリと研磨に声をかけられなかったのは自分の落ち度だ。 研磨は決して彼自身からアクションを起こすことはない。
私から動かなければ、彼はこちらに応じない。
正直、そこすらも研磨の思惑なのだ。
Aは気分屋で自由な性格であるが、また一方では自分勝手でアクがあるため、“蓋を開けてみれば厄介“と言われるやつでもあった。
そんな人間を手中に収めるにはどうするのが最適か? それはもう、とにかく「全てを受容し、自由を与える」ことである。
まるで子供をあやすようなやり方だ。 研磨はそれをゆっくり噛み砕き、突いてきた。
__じゃあさ、将来一緒に住もう。
__最終的にAの隣にいられるなら、その過程はどうでもいいってだけ。
研磨の言葉を反芻する。
将来、ショウライ、結果的に
……それって、もしここで私が身を引いたら、研磨の隣には別の誰かがいるかもしれないってこと?
「ねえ、考えてるとこ悪いんだけどさ、Aあれいいの?」
「あれって、何が」
「窓の外、すぐ下の花壇の辺り見えるでしょ。 孤爪いるよ」
友人が顎で示した先にいるのは、Aにとって話題渦中の彼だった。
ただ、ある種特別らしいその状況に、ピシリとAは全身が硬直する。
彼が向かい合っているのは、確か年度初めに可愛い新入生がいると一風を成した1年生の女生徒だ。
顔を赤くして研磨に何かを伝えている。
鈍くはないし、寧ろ目敏いAはそれが何を示しているのか分かった。 所謂、呼び出しというやつ。
ぞわり、漠然とした不安。
何でこのタイミングで? どうしよう、ねえ研磨、待ってよ。
私これ、見たくない。
「うわあ、甘酸っぱ! でも相手孤爪だし、これは砕け……って、Aすごい顔」
「ごめん、ちょっと席外す。」
大切なものほど、自分の手から離れそうになったときに、その価値を自覚するらしい。
我慢出来ず、Aは教室を飛び出した。
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まめ - 番外編…だ、と……?!ありがとうございますッッッ!!! (4月23日 16時) (レス) @page47 id: 99eca05f77 (このIDを非表示/違反報告)
涼夏 - 待ってましたぁ!!!ありがとうございます。いやー新学期始まって癒しがなかったもんですからありがたやっ!! (4月21日 22時) (レス) @page47 id: b5371def11 (このIDを非表示/違反報告)
食べる(プロフ) - なゆちさん» 初めてコメントしてくださったときのこと、覚えています!当初は夢ジャンルに復帰したばかりでしたので、すごく丁寧で温かいあの一言が心に沁みてました🙏毎度、ありがとうございます! (4月21日 18時) (レス) id: 52b293a903 (このIDを非表示/違反報告)
食べる(プロフ) - 涼夏さん» こちらこそ、そう言って頂けて嬉しいです。長い間、読んでくださりありがとうございます!日頃の癒しになれたのであれば、良かったです🙏 (4月21日 18時) (レス) @page47 id: 52b293a903 (このIDを非表示/違反報告)
なゆち(プロフ) - 完結おめでとうございます🎉初めてのコメントをしてから約一ヶ月も経っていて、少しびっくりしちゃいました笑食べるさま、とてもかわいい研磨くんの素敵なお話をありがとうございました><次の作品も楽しみに待ってます💞 (4月9日 5時) (レス) id: 782e12ed33 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:食べる | 作成日時:2024年3月7日 17時