Episode74 ページ25
__________十年前、ロンドン
「どこいくの?ねぇ、おかあさま。」
雨の中、母親に手を引かれ、まだ夜明け前の朝の街を走る少女、ジェーン・ウォーレス、六歳。
寝ていたところを突然起こされ、まだ開ききらない瞳を擦りながら、訳もわからず母親の後を追う。
「ジェーン、いい子だから、黙ってついて来て。」
いつもは優しい微笑みを称えている母親の真剣な顔に、ジェーンは不安が募る。
母親の背中では、まだ幼い弟が寝ている。
「……おとうさまは?」
家を出たのは自分と母親と弟。
父親の姿はない。
ジェーンの問い掛けに、母親の歩みが止まる。
「おかあさま…?」
顔にかかる黒髪が影になって、表情が見えない。
「…お父様は……良いのよ。早く行きましょう。」
納得できないジェーンは母親の正面にまわり込み、帰ろうと訴える。
「どうしておとうさまおいてっちゃうの?おうちにかえりましょ?ねぇおかあさま。………ないてるの?」
少女の頬に雨ではない、温かい水滴が落ちる。
「ごめんなさい。ジェーン、お願いだから、……いい子だから、静かについて来て。」
涙を流す母親に抱きしめられる。
ジェーンはどうしたらいいのかわからない。
「うぇ、うぇーん。」
突然目を覚ました弟が泣き出す。
母親は慌てて弟を正面に抱え直す。
「あぁ、チャーリー。可愛いチャーリー、泣き止んで。お願い。」
狼狽して、弟を必死にあやす母親も泣いている。
立ち尽くすジェーンの耳に、バタバタと慌ただしい足音が飛び込む。
「こっちだ!」
「ガキの声がするぞ!」
途端に母親は顔色を変えて細い路地に身を隠す。
流石にジェーンも、事態の異常さを察する。
三人は夜が明けるまで、雨の中、じっと息を殺して時間が経つのを待ち続けた。
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noel(プロフ) - あやねっちさん» 嬉しいです!!ありがとうございます、これからも頑張ります (2020年4月4日 18時) (レス) id: fd0be5fd69 (このIDを非表示/違反報告)
あやねっち - 1からここまでよみました 最高でした更新楽しみにしていますね (2020年4月4日 16時) (レス) id: a393e3772d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:noel | 作成日時:2020年3月30日 9時