Episode68 ページ19
胸まわりを背後できつく締め上げるリボン。
脚に纏わり付く長い裾。
履き慣れないピンヒール。
神島の命令で着せられた漆黒のドレスは、拘束具のようにAの身体の自由を奪う。
「あぁ、何と美しい。」
Aの髪に口付けを落とす神島。
嫌悪感しか感じない。
「ボスが君の到着を首を長くしてお待ちだ。さぁ、行こうか。」
差し出された手を払い退けると、神島は眼の色を変えてAの小さな顎を片手で下から掴む。
そのまま力を加えられ、頬の痛みに顔を歪めるA。
「手を出さないからって調子に乗るなよクソ餓鬼…。貴様はただの人形なんだ。わかったら人形らしく大人しくしとけ。」
そう吐き捨て、乱暴に腕を掴んだ神島はAを再びエレベーターに押し込み、最上階のボタンを押す。
さっきの音はきっと中也さん。
大丈夫。絶対助けてくれる。
必ず、私の家に帰る。
Aはそう信じて、今は静かに時機を待つ。
到着を知らせるベルの音がし、扉が開くと、赤い絨毯が轢かれた長い道が現れる。
その両脇は大男達によって固められている。
下層階にいた黒服達とは比べ物にならない巨体に、逃げる隙間は何処にもない。
いやらしい手つきで腰に回された神島の手に従い、足を踏み出すと、男達の舐めるような視線が身体中に絡みつく。
吐き気を感じながらも気丈に歩を進めるA。
辿り着いた先には、大男が四人は座れそうなソファに男が一人、長い脚を組んで傲然と座っている。
三十代程だろうか。
整った顔立ちに輝く金髪、少年のような笑顔のせいで年齢を特定することができない。
そして男の真っ赤な瞳が、獲物を定めた蛇のようにAを見つめる。
Aの脳が警報を鳴らしている。
この男は危険だ。
今すぐ逃げなければ。
捕まれば最後、私に自由などない。
私はそれを知っている。
この男を知っている。
そうだ、逃げなければ。
しかし恐怖に足はすくみ、身体は震える。
怯えるAに、男が立ち上がりゆっくりと距離を詰める。
危険信号が鳴り響く。
記憶が揺さぶられる。
眼前で流れるのは昔の記憶。
男のせいで狂わされた、あの頃の記憶。
あぁ、助けて Charlie!
「Welcome back Jane.(おかえり、ジェーン。)」
男の唇が弧を描くのを見た記憶を最後に、意識を失った。
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noel(プロフ) - あやねっちさん» 嬉しいです!!ありがとうございます、これからも頑張ります (2020年4月4日 18時) (レス) id: fd0be5fd69 (このIDを非表示/違反報告)
あやねっち - 1からここまでよみました 最高でした更新楽しみにしていますね (2020年4月4日 16時) (レス) id: a393e3772d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:noel | 作成日時:2020年3月30日 9時